大学教員,科学と教育と音楽について語る

大学教員(気象予報士)でありギター弾きのワタシが,天気に科学に教育に音楽に,日々思う雑感を語ります。

季節の変化が生じるわけ

 日本には春,夏,秋,冬の四季があり,それぞれの季節特有の食べ物や行事,スポーツなどがあります。大学教員の私は,桜を見ると新学期,そして新入生が思い出されます。そんな新入生たちがそろそろ大学生活に慣れてきたかな,と思っていたらジメジメした天気の悪い日が続く梅雨がやってきます。憂鬱な梅雨が明けて暑い日々がやってくると,期末試験に成績評価。あっという間の夏休みが終わって9月中頃には後期期間が始まる。それから間もなく朝晩が冷える日が増えてきて「秋が来たな」と思いきや,それからさらに一気に時は進み,4限の講義の終わりの16時半頃にはかなり外が暗くなっていて日没が早くなったことを実感し,いよいよ冬の到来。静岡の冬は天気の良いカラっとした気持ちのいい日が多く,雪をかぶった富士山の綺麗な姿を見ることができる絶好の季節。2月の始めに後期期間が終わり春休み。春休みの中盤2月の終わりから3月の始めには梅が満開になり,鶯の鳴き声も聞こえてきたりして春はもうすぐ。卒業式を終え,桜が咲きはじめツバメを見かけるようになって,また春が来たなと思いつつ新入生をお迎え。こんな感じで一年の中で季節の変化を感じながら日々過ごしています。

 このような明瞭な季節の変化は地球上のどこでもあるものではありません。例えば,赤道直下の熱帯ではこのような明確な季節の変化がなく,基本的に年中暑いわけです。

 

 ところでこの季節の変化,どうして生じるのでしょうか。実は地球の自転軸が傾いていることが季節の変化の大きな要因なのです。

 

 地球は1日に1回自転をしています。北極と南極を通る1本の軸(自転軸)を考えると,地球はこの自転軸を中心に1日に1回自転をしています。さらに地球は太陽の周りを1年かけて1周しており,これを地球の公転といいます。地球は1日1回自転しつつ1年かけて太陽の周りを公転しているというわけです。

 上図のように,「春分夏至秋分冬至春分」という形で地球が太陽のまわりを1年かけて回っているのが地球の公転です。そして,これが重要なのですが,上の図には地球の自転軸を併せて示していますが,地球の自転軸がある角度で傾きながら公転をしています。公転によって地球の中心がえがく軌道を公転軌道といいます。この公転軌道に囲まれた面が公転面。地球の自転軸はこの公転面から66.6°の角度をもって傾いています。実はこの自転軸の傾きが季節の変化が生じることに重要な役割を果たしています。もし自転軸が傾いていなかったら季節の変化が生じなかったでしょう。

 

 自転軸は傾きながら公転をしていることにより,下の図に示すように太陽の一日の中での動き(太陽の日周運動)の仕方が一年を通して変化します(太陽の年周運動)。

 春分の日秋分の日は太陽は真東からのぼり真西に沈んでいきます。夏至の日は北東からのぼり北西に沈んでいく,冬至の日は南東からのぼり南西に沈んでいきます。太陽が真南にきて一日の中で最も高い位置にくることを南中といいます。南中したときの太陽の地面からの高さ(南中する太陽の見える方向と地面の間の角度)を南中高度といいます。上の図からわかるとおり,夏至の日の南中高度(③)は一年のうちで最も高く,冬至の日の南中高度(①)は一年のうちで最も低い。春分及び秋分の日の南中高度(②)は①と③の間の角度になります。また,太陽が出てきて沈むまでの道のりの長さは夏至の日が最も長く冬至の日が最も短い,春分秋分の日はそれらの間の長さになっています。このように,太陽が出てくる方角と沈んでいく方角,南中高度,太陽が出ている間の道のりの長さが一年を通して変化しています。これが太陽の年周運動。ちなみに,このような太陽の年周運動のパターンが見られるのは日本付近での話であり,日本付近と緯度が違う場所,例えば北極付近や赤道付近では全く違う太陽の年周運動のパターンになります。

 

 上の図で示した太陽の年周運動によって日本付近では季節の変化が生じます。ちょっと乱暴な言い方かもしれませんが,要は季節の変化というのは気温の変化と言えます。夏は暑くて冬は寒い,春と秋はそれらの間の心地よい感じの気温。そして気温は地面受ける太陽の光の量に左右されます。地面がたくさん太陽の光を受けるとそれだけ地面の温度が上がり,地面が暖まるとその上の空気も暖められて気温が上がるということです。

 夏至の日は一年の中で最も太陽が出てきて沈むまでの道のりの長さが長い。つまり,一年の中で太陽の出ている時間が最も長く,地面が太陽から光を受ける時間も最も長い。太陽の光を受ける時間が長いということはより多くの光を受けて地面がより暖まるということ。逆に冬至の日は一年の中で太陽の出ている時間が最も短く,つまり地面が太陽から光を受ける時間も最も短い。そして冬至は太陽の光を受ける時間が短いゆえに地面が夏至の時ほど暖められない。春分秋分の日においては地面が太陽光を受ける時間は夏至冬至の間で,地面の暖まり方も夏至冬至の間の程度になります。

 もう一つ,太陽の高さも地面の受ける光の量に影響します。太陽の光が高い位置から地面に入ってくるほど地面はより多くの光を受けることができます。このことについて下の図を使って説明します。

 上図の左の図は太陽の光が地面の垂直真上から差し込んでくる場合を示したもの。10という量の光が1という幅を持って地面に入ってくると考えます。この場合,地面が光を受ける幅は1。そしてこの1の幅の中で10の量の光を受ける。よって,幅1あたりの地面が受ける光の量は10です。一方,右の図は太陽の光が斜めから地面に差し込んでくる場合です。同じく10の量の光が1の幅を持って地面に入ってきます。しかし,この場合,地面が光を受ける幅は1より大きくなります。上の図で光の幅を1は実際には4cmなのですが,地面が受ける光の幅はこの図の中では実際には4.5cmになります。このように光が斜めから入ってくると光が当たる範囲が広くなります。しかし光の量は変わらず10。すると,光が斜めから入ってくる右の場合1より大きい幅に10の量の光が入ってくる。よって幅1あたりの地面の受ける光の量は10よりも小さくなります。このように,光が斜めから入ってくると地面が受ける幅1あたりの光の量が小さくなります。ここでは平面で考えたので幅1あたりという表現をしていますが,実際には光が斜めから入ってくると単位面積あたりに受ける光の量が小さくなるということになります。もし懐中電灯をお持ちでしたら,懐中電灯を真上からテーブルを照らした時と斜めから照らした時の違いを観察してみてください。斜めから照らすと真上から照らす場合よりも明るさは減るが照らされる範囲は広くなるはずです。

 以上をまとめると,

 

夏至の日:

 ①太陽の出ている間の時間が長い→地面が光を受ける時間が長い

 ②太陽の高さが高い→単位面積あたり地面が受ける光の量が多い

 →地面がより暖められその上の空気の温度(気温)もより高くなる

冬至の日:

 ①太陽の出ている間の時間が短い→地面が光を受ける時間が短い

 ②太陽の高さが低い→単位面積あたり地面が受ける光の量が少ない

 →地面があまり暖められずその上の空気の温度(気温)もあまり上がらない

春分の日秋分の日:

 夏至の日と冬至の日の間

 

というわけで,太陽の年周運動が季節の変化を生じさせるということになります。

 

 では,次のギモンとして,そもそも太陽の年周運動がなぜ起こるのか。つまり,なぜ夏至の日は冬至の日に比べて太陽の出ている時間が長く高さも高くなるのか,という疑問です。続いてこの疑問について説明していきましょう。

 

 既に示した地球の公転のようすを示した図をもう一度ご覧ください。この図の中で自転軸が太陽に対してどのようになっているか,まず春分秋分の時ですが,自転軸は太陽に対して傾いていません。図の中では春分秋分の時に自転軸は右の方に傾いているように見えますが,実は太陽の方には傾いていません。太陽と反対の方向にも傾いておらず,地球と太陽を真横から見ると自転軸が立っているように見えます。一方,夏至の時は自転軸は太陽の方に傾いています。さらに,冬至の時は自転軸は太陽の方とは反対の方向に傾いています。実は,この自転軸の太陽に対する傾き方がここでは重要となってきます。

 

 まず,春分の時の太陽の日周運動を下の図を使って説明します。

 春分の時,自転軸は太陽に対して傾いていません。地球と太陽を真横から見ると自転軸は立って見える。そして,地球の太陽の光が当たる部分と当たらない部分は(真横から見ると)自転軸を境に等しく半分半分になります。この太陽の光が当たる部分と当たらない部分が等しく半分半分の状態を北極の真上から見て,日本付近における太陽の日周運動を考えてみます。太陽の日周運動については下記の記事をぜひご一読ください。

yyamane.hatenablog.com

 日本付近の位置は上図で示したように①→②→③→④→①という形で自転に伴って反時計回りに1日で1周してきます。この1周の中で①→②→③の間は太陽の光を受けている部分を動いている昼の時間です。一方,③→④→①の間は太陽の光を受けていない部分を動いている夜の時間。上で述べたように,太陽の光が当たる部分と当たらない部分が等しく半分半分なので,①→②→③の昼間の長さと③→④→①の夜の長さは同じになります。さらに,①は夜のゾーンから昼間のゾーンに入ってくる日の出のタイミングであり東の方に太陽が見え始めてきます。特に今考えている春分の時は真東の方向に太陽が見え始めてきます。さらに,③の位置は昼から夜のゾーンに入る日の入りのタイミングであり西の方に太陽が見えなくなって沈んて行くようにみえる。そして春分の時は真西の方角に見えなくなっていくのがわかると思います。

 ②の位置は太陽が真南に見える南中の時。②の位置で南中の時の地球と太陽のようすを真横から見ると,②の位置に差し込む太陽の光の方向と地面(②の位置の地面とは,②の地点に接する面です)の間の角度が南中高度。特に今は春分に注目しているので,これは春分の日の南中高度です。

 

 さて,次は夏至の日の太陽の年周運動と南中高度を下の図を使って説明します。基本的に考え方は上述の春分の時の話と同じような感じです。

 既に述べましたが,夏至の時は自転軸は太陽の方に傾いています。このことにより,地球の太陽の光が当たる部分が北極付近では北極から太陽の反対側の方にまで広がっています。一方,南極付近では太陽の光が全く当たっていません。明らかに光の当たり方が春分と変わっていますが,これは太陽に対する自転軸の姿勢の違い(春分の時は太陽に対して傾いていない,夏至の時は太陽の方に傾いている)によります。さて,この夏至の日の様子を北極の真上から見てみましょう。日本付近の位置は①→②→③→④→①というふうに自転とともに反時計回りに1日で1周します。春分の時と同じように,①は夜から昼のゾーンに入ってくるタイミングで日の出,③は昼から夜のゾーンに入るタイミング日の入りです。①から③までが昼,③から④を経て①までが夜です。そして図を見ると明らかなように,①から③の昼の長さが③から④を経て①までの夜の長さよりも長いことがわかります。つまり,夏至の日は夜よりも昼が長い。さらに,①の位置の日の出の時に太陽が見え始めるのは北東の方向,③の位置の日の入りの時に太陽が見なくなるのは北西の方角になっています。さらに,②は太陽が真南に見える南中の時の位置ですが,この南中の時の地球と太陽を真横から見ると,夏至の時の南中高度が先に説明した春分の時の南中高度よりも大きくなっている,つまり南中高度が高くなっている(より天頂(地面に垂直真上の方向)に近い方向から太陽の光が入ってくる)ことがわかります。

 

 このように春分夏至それぞれにおける太陽の日周運動を比較すると以下の通りにまとめることができます:

 

昼と夜の長さ:

 春分→昼の長さ=夜の長さ

 夏至→昼の長さ>夜の長さ

日の出の方角:

 春分→真東

 夏至→北東

日の入りの方角:

 春分→真西

 夏至→北西

 

そして,夏至の日は春分の日に比べて太陽の出ている時間(つまり昼の時間)がより長く太陽の光を地面がより多く受ける,加えて夏至の日は春分の日に比べて太陽の高さが高いので,これによっても地面の受ける(単位面積当たりの)光の量が増える。これらのことから,夏至の日は春分の日よりも地面がより暖まってその上での空気もより暖まる,つまり気温が高くなるわけです。

 ちなみに秋分の日の状況は春分の日と全く同じ。冬至の日は夏至の日と反対に自転軸が太陽の方と反対の方向に傾いている。これにより,日本付近では昼の長さが夜の長さに比べて短くなり,日の出の時に太陽の見え始める方向が南東,日の入りの時に太陽が見えなくなる方向は南西になります。さらに冬至の南中高度は一年で最も低くなります。昼の時間が短く太陽の高さが低いゆえ,地面が受ける太陽の光の量が減って地面があまり暖まらずその上の空気もあまり暖まらず気温も上がりにくいわけ。練習問題として,冬至の時の状況について上の夏至の時の図を参考にしながらご自身で図を書きながら理解を深めてみてください。

 

 以上,とっても長文になってしまいましたが,まとめると,

 

地球はその自転軸が傾きながら太陽の周りを公転しており,これにより太陽の一日の動き(日周運動)が一年の中で変化することで季節の変化が生じる。

 

ということになります。

 

 最後に余談です。上述のとおり,現在の自転軸の傾きは公転面に対して66.6°なのですが,実はこの角度は過去ずっと同じだったわけではなく周期的に変化してきたことが知られています。自転軸の傾きは41,000年周期で大きくなったり小さくなったりしてきました。さらに自転軸はコマの首振り運動(歳差運動)のような動きもしており,この運動の周期が25,700年。要するに,自転軸の傾きは過去に周期的に変化してきたわけ。例えば,今の自転軸の傾きよりもさらに自転軸が太陽の方に傾いたとした場合,夏至の日の太陽の南中高度は今よりさらに高くなります。こんな感じで自転軸の傾きが変わると太陽の光の受け方が変わる。光の受け方が変わると地面の受ける光の量も変わり地面の暖まり方が変わり,そして地面の上の空気の暖まり方も変わる。そして気温の変化の仕方が変わり気候が変化してくる。すなわち,自転軸の傾きの変化が地球の気候の変動をもたらすわけです。過去には地球の気候は今よりもかなり温暖であったり,逆に氷河期と呼ばれるように寒冷であったり気候は変動してきたことが知られています。このような気候の変動の要因の一つに自転軸の傾きの周期的な変化があります。

 

基本的な問題を落とすと命取りになる

 毎年,地学の講義をしている中で必ず取り扱う用語の一つに「反時計回り」というのがあります。地球は1日1回自転をしています。地球を北極の真上から見た時に,反時計回り,つまり時計の針が進む方向と反対の方向に回転をしています。

 

 反時計回りとは,時計の針が進む方向と反対の回転方向

 

 この「反時計回り」という言葉を回答する試験問題を,毎年ではないですがよく出題します。出題した時に必ず出てくる誤答で,

 

”半”時計回り

 

というのがあります。この「半時計回り」という誤答が必ず出てくる,注意してね,という話を毎年学生にするのですが,絶対にこの誤答が出てきてゼロにならないのです。学生に注意してねと話をする時,学生みーんな顔をニヤニヤさせながら「そんな間違いするわけないでしょ」みたいな感じで捉えているようです。なのにいざ試験で問われると必ずこの誤答が出現する。何度も書きますが絶対にゼロにならないのです。毎年口を酸っぱくして注意しているにもかかわらず,です。

 

 試験の限られた時間で問題を解いていく中で,合格や単位がかかっておりどうしても緊張するし冷静さを維持するのは難しいと思います。そのような「特殊な」状況において「反時計回り」を「半時計回り」と,「はん」という音の共通性でうっかり書いてしまうということは十分あり得ると思います。しかし,この誤答はゼロにはならないが数は少ない。殆どの学生はちゃんと「反時計回り」と正確に書いています。なんら難しい問題ではない,大変お得な問題であり,多くの学生はしっかりここで得点を取っていくわけです。となると,こんな簡単な問題でうっかり間違って点を取り損ねると,これが受験だったら勝負で命取りになることもあるわけです。

 

 基本的には,試験において難しい問題では差がつかないと思います。なぜなら,難しい問題は解くことができる人があまりいないから(解くことができれば差をつけることができますが)。となると,誰もが解くことができる基本的な問題を落とすことは試験では命取りになる。特に「反時計回り」のようなとっても簡単なものを漢字間違いで落とすなんて,相当に致命的。このような簡単でとても基本的な事柄は,「カンタンカンタン」と安易に考えて舐めてかかってしまって,理解や暗記が疎かになりがちです。こういう基本的なことこそしっかり理解し,確実に記憶する。こういうことを日常的にできるかどうかがとても大事。そういう心構えを持ち続けて欲しいといつも学生には伝えています。

 

 基本を疎かにすると基本に泣く

 

ということですね。

私が地学,そして気象学の研究を志したわけ

 私は現在,大学で主に地学に関する講義を担当しております。地学の内容を幅広く全般的に含んだ講義をしておりますが,自分自身の専門は気象学です。大学院の気象分科を受験するにあたり,気象学の科目だけでなく地質学などの色々な科目も選択する必要があったこともあり,大学生の時は地学を全般的に勉強しておりました。その時に「へえ~」と思ったことなんかも交えながら日々講義しております。地学がカバーする範囲は地震や地形,岩石,化石,気象,天文といった感じで大変広い。しかし,これらはバラバラではなくつながりをもっています。例えば,地形はそれを作っている岩石や過去の地震,気象や気候の影響を受けて作られていたりする。地形がどのようにしてできてきたのか,そのプロセスの理解に化石が大きな手掛かりになることもあります。また,地形の形成に影響する気候は,地球の自転軸の傾きやその変化といった天文学的要因で変動します。このように様々なことが絡み合ったシステムの中で色々な地学現象が生じている。広範に及び一見するとバラバラのように見える地学,実はそれぞれに繋がりあり,ここが地学を学ぶ魅力でもあります。

 地学のもう一つの魅力,それは現象が今まさに眼前でダイナミックに展開されているということ。眼前に広がる3000メートル級の険しい山々,蒸し暑い真夏に突然発生する激しい雷鳴,激しい風と雨を伴う台風,夜空に輝く恒星,地学現象はでっかいスケールで我々の身近で展開されています。その身近さとスケールの大きさは,時には大きな感動をよび,時には甚大な被害をもたらす。魅力と脅威が表裏一体というのも地学現象の大きな特徴の一つでしょう。

 さて,地学の魅力をエラソーに書いてみましたが,実は私,大学生の2年生ごろまでは地学をやろうなんてちっとも思っていませんでした。大学に入学したときは素粒子物理学を勉強したいと思っていました。高校でも理科は物理と化学の選択。地学を選択するという考えは1ミリもありませんでした。

 そんなワタクシが地学をやろうと思うきっかけとなったのは,大学2年生の冬だったでしょうか,今の妻と岐阜県平湯温泉に行ったことです。もちろん素晴らしい温泉も十分楽しんだのですが,たまたま入った資料館のようなところが運命の場所でした。ここでは周辺の北アルプスなどの地質について解説する展示があり,これらの展示自体は特に目新しいものでもなくオーソドックスな感じのものだったのですが,すぐ目の前に広がっている北アルプスの山々の下でこんなことが今まさに起こっているのか!と思うと,いたく感動してしまって,「地学オモロイやん!」と思ってしまった。これが地学をやろうと思ったキッカケになったのです。ところで,この平湯温泉への旅行,実は私は最初あまり乗り気ではなく,「まあ,しゃーないし行ってみるか」という感じでした。行く気満々で行ったわけでもない旅行でこんな運命的な出会いがあるのですから,人生何があるかわからないものです。

 この平湯温泉への旅行をきっかけに,3年生からの卒業研究のゼミは地学系の研究室にしようと決めました。実は私,当時所属は物質科学専攻でして,その専攻にいながら地学系の研究室に所属するというのは異色でした。さて,地学系の研究室で卒業研究をすることを決め,具体的にどんなことをやろうかと考えた結果,「竜巻」の研究をしたいと思うようになりました。え,竜巻,なんで?北アルプスを見て地学やろうとおもったのだから地質学とかではないの?と思われたかもしれません。実は,気象には幼少から興味関心がありました。外で雷が鳴り始めるとベランダに出てずっと黒い雲を眺め稲妻を見て「おおー!」と一人興奮しておりました。台風が接近してきて風がどんどん強くなっていく時に外に出て風の強さを感じたり。しかし,これらの行動は防災上は全くもって良くないことなので,良い子はマネはしないように。竜巻については,幼少の時に叔父からプレゼントされた「科学物知り百科」というようなタイトルの漫画をよく読んでいて,この本に書かれてた竜巻のことがなぜか記憶にずっと残っていて,なんでこんな奇妙な現象が起きるのか,ずっと心のどこかで不思議に思っていたのです。そういう幼少期からの背景もあり,地学系で卒業研究として何をするか考えていったときに,気象,そして竜巻をやるというのが沸々と出てきたわけです。

 以上が私が地学,そして気象学を志した経緯でございます。

 最後に大学時代に気象学を学んでいた時の印象深い出来事を。ある夜,気象学を勉強する人ならばまず最初に読むテキストとして定番の「一般気象学」を読んでいました。この本のメソスケール現象について書かれた章の中の積乱雲の中の話,特に積乱雲の中で冷気が作られそれが地上に吹き下ろしてくる(冷気外出流)という話を読んでいるときに,ふと外を見ると雷雨が。この本で読んでいることが今まさに空に広がる雲の中で起こっているのかと思うと,いたく感動してしまい,気象学により興味関心をもつ出来事になりました。

 気象学,そして地学の魅力は,我々の身近の眼前でダイナミックに現象が展開されることです。その魅力ゆえ今に至るまで,まあ長々とお付き合いをさせていただいているわけです。この気象の魅力を肌で感じ続けられるよう,できるかぎりフィールドに出て研究を続けていきたい,そしてその魅力と感動を講義の中で学生に伝えていきたいと思っています。

太陽はなぜ東からのぼり西にしずむ?

 太陽は東からのぼって西に沈む,とってもとっても当たり前のことですね。絶対にあり得ないことを「たとえ太陽が西からのぼっても~」というように言うぐらい,絶対的に当たり前田のクラッカーですね(わかる人だけわかればよい!(笑))。

 

 では,なぜ太陽は東からのぼって西にしずむのか。太陽がそのように動いているから?いや,太陽は動いているのではなく地球が動いていて,その動いている地球にのっている我々も動いており,我々が動いているから太陽が動いているように見える,というわけです。走っている車から外の建物や木などを見るとこれらが動いているように見える。しかし,建物や木が動いているのではなく走っている車に乗っている私たちが動いているわけです。動いている立場から止まっているものを見ると,その止まっているものが動いているように見える。

 

 でも,よく考えるとおかしくないですか?校舎の4階から運動場を見ると同級生が走っている。それを友達と二人で見ていて,「お,アイツ頑張って走っているね」とあなたが言う。すると一緒に見ていた友達が「君,何を言っているんだ!アイツが動いているんじゃない。動いているのは我々、我々がいるこの建物。この建物が動いているからアイツが動いているように見えるのだ!!」なんて大真面目に言い出したらどうします?まあ,極端なたとえ話ですが,言いたいことはこういうこと。動いている物を見た時にその物自体が動いていると思う,これが私たちの自然な感覚だと思います。動いているものを見て,それが動いているのではなく自分の方が動いているから動いているように見えると考えるのはちょっと不自然ではないでしょうか。しかも,車や電車に乗っている時のように明らかに自分が動いているということを認識しているならまだしも,我々は地球の自転という動きを全く感じないのに,地球の方が動いているから太陽が動いているように見える,って・・・。じゃあ,地球の自転感じます?今日の地球の自転の様子どうですか?感じない?では,なんで地球が自転しているってわかるのですか?地球の自転を証明してください!

 

 おっと,話がかなり外れてしまいました。太陽が東からのぼって西に沈むという至極当たり前のことでも,よくよく考えると「あれ?」と思うことが世の中にはたくさんある,そういう「あれ?」についてアレコレ疑問を持って深掘りして考えることから科学は始まる,ということを言いたかったのです。しかしこの記事では「太陽は東からのぼって西にしずむように見えるのはなぜか」ということに焦点を当てたいので,地球の自転の証明については別の記事で改めて解説させていただければと思います。ここではひとまず,地球は自転,つまり1日に1回転しているということを前提に話を進めていきたいと思います。

 

 太陽が東からのぼり西にしずむ。このような太陽の一日の中での運動を太陽の日周運動といいます。太陽の日周運動は地球の自転によるものです。

 

 さて,突然ですが,地球を北極のう~んと上空真上から見下ろすと,地球はどんなふうに見えるでしょうか。想像してみてください。難しいですか。地球儀を持っている人は地球儀の北極の上の方から見下ろしてみてください。地球儀を持っていない人のために実際に地球儀を北極真上から見た画像を以下に用意しました。

 この写真のように,地球を北極の真上から見下ろすと,ちょうど真ん中に北極がくるようにみえます。このような地球を北極の前から見たときの様子は今後の説明で重要でとなりますので,ぜひ理解してください。

 

 地球は自転をしていると述べましたが,地球の自転の向きは地球を北極真上から見た時に「反時計回り」(時計の針が進む方向と反対向き)の方向になります。ちなみに,ちょっと想像することが難しいかもしれませんが,北極と真逆の南極の真上から地球を見た時の自転の方向は「時計回り」となります。つまり,北極に立った時と南極に立った時で自転の向きが反対になるわけです。実は,北半球と南半球で自転の向きが変わってくることが地球上の色々な現象に影響しています。例えば,低気圧の渦の巻き方の違い(北半球では反時計回り,南半球では時計回り)なんかがそうです。

 

 ここからの説明は以下の図を用いて説明します。

 

 

 この図には,北極真上からみた地球の図(先ほど説明した通りど真ん中に北極が書いてあります),そして右側に太陽を示しています。自転の向き(反時計回り)も要確認。地球の太陽の光が当たる半分側を斜線で示しています。この斜線の部分は太陽の光が当たるので昼間のゾーン,逆に太陽と反対の方を向いている地球の半分側には太陽の光が当たらないので,この部分は夜のゾーンとなります。

 

 図中の①の位置にいる人は自転の動きとともに①→②→③→④というふうに反時計回りに回転し,④のあと①に戻ってきます。このようにして自転とともに1日で1回転します。

 

 ①は太陽の光の当たらない夜のゾーンから太陽の光が当たる昼のゾーンに入ってくる位置です。①の位置から北極の方向が北であり,北に対して右手の方向が東。というわけで,①の位置にいる時に東の方に太陽が見え始めてきます。つまり,①は「日の出」の時の位置となります。自転とともに動いてきて②の位置にきた時,この位置から見て南に太陽が見える。これが太陽が「南中」する時。さらに自転とともに動いて③の位置にくる。③の位置は昼のゾーンから夜のゾーンに入っていくところ。この③の位置からは太陽が西に見えており,夜のゾーンに入っていくにつれてだんだんと西の方向に太陽は見えなくなっていく。つまり,③は「日の入り」の時の位置です。その後夜のゾーンを動いていき,④はちょうど夜のゾーンのど真ん中で「真夜中」の時の位置,およそ0時ごろの位置となります。この後①に戻ってきてまた朝を迎えるというわけです。

 

 このように,「太陽が東からのぼって西にしずむ」ように見えるのは,太陽がそのように動いているのではなく,地球が自転をしている,その自転をしている地球にのっている我々も動いていて,動いている我々から太陽を見るので太陽は動いているように見えるというわけです。太陽の日周運動は地球の自転によるものなのです。

大学生を叱るのは結構ストレスなんです

 長年,大学教員をやっていると,色々なことで学生に注意したり,時には強い言葉で叱ること,叱らなければならないことがあります。つい最近もそのようなことがありました。

 

 とある講義で男子学生二人が何やらボソボソと話をしている。多分,講義の内容とは関係ない私語のようだ。少し様子を見ていたが,やめそうにない。これはあかんと思い,「そんなに話がしたいなら教室から今すぐ出て行ってから話をして。他の人の迷惑になる」というようなことを,私の怒りレベルも高レベルに達してしまっていたので,多分かなりキツめの感じで言いました。二人の学生は,注意するとすぐにシュンとして,その後二人の私語は一切なくなりました。

 

 実はこのようなこと,これまでにも割とありました。当の学生たちは,周囲に聞こえないようにヒソヒソ話をしているつもりかもしれませんが,当然ながら周りの殆どの学生は静かにしているので,いくらヒソヒソと話していても本人たちが思っている以上に耳に入るものです。しかも,ヒソヒソの方が話の内容もよくわからんから余計に腹が立つ(笑)。ということで,ちょっときつめの言い方で叱ることがこれまでにもありました。

 私語をしている本人たちは周りに聞こえていないつもり,迷惑をかけていないつもりでも(まあ,そういうことすら考えておらず,ただただ話をしたいから話をしているという学生もいるかもしれませんが),本人たちが思っている以上に周囲には聞こえている。それから,これも学生からすると少々意外かもしれませんが,教壇からは学生が思う以上にそれぞれの学生が何をやっているのか結構教師からは見えるものです。講義と関係ないこと,通販のカタログや雑誌を見ていたり,他の講義のレポートを作成していたり,いわゆる内職の様子って結構見えるものなんですよ。このことは度々学生にも話をしていて,教員によっては講義に関係ないことをやっているのを見つけたら激怒する人もいるからね,と。そういうわけで,ヒソヒソ話であっても教壇に立つ教師には結構耳に入ってくるものなのです。

 

 どこの大学でも授業アンケートというものをやっていると思いますが,この授業アンケートの中で学生からの意見(というか,クレーム)で割とよく見かけるのが,「教員が私語をしている学生を注意しなかった」というものです。ちゃんと講義をききたいという人にとっては,近くでヒソヒソ話をされたら鬱陶しくて邪魔でしょうし,それを注意しない教員には,そりゃ文句を言いたくなるでしょう。上記の二人の男子学生のヒソヒソ話についても,この授業の後に提出してもらったある学生の感想カードに「先生が注意した後に授業の話がよく聞こえるようになりました」ということを書いていました。

 

 正直言うと,いい歳した大学生を「静かにしろ」ということで叱るのは結構ストレスなんですよ。叱ったり注意したりすると教室の雰囲気はどうしても悪くなります。ただでさえ学生は質問や発言をあまりしないのに,私語をしている学生を注意して雰囲気が悪くなるとなおさら学生は発言しにくくなります。ワタクシ,多分注意する時は怒りレベルが上昇しているので関西弁が割とストレートに出ていると思います。静岡の学生にとってはその関西弁がキツめに聞こえるみたいで,端的に言えば「怖い」みたいで。なので余計に雰囲気が悪くなる(笑)。ただ,これは私の方で改善すべき問題でもあります。しかし,上記のように「ちゃんと注意してほしい」という学生もいるわけで,しっかり注意はしなければなりません。見過ごすわけにはいかない。叱るというのはなかなかエネルギーがいるもので,結構疲れるものです。決して叱ったあとに気分がスッキリするわけではない。

 

 というわけで,最近は先手必勝で,講義の初回の段階で「自分たちは聞こえていないつもりでもヒソヒソ私語は思った以上に周りに聞こえるし迷惑だ」「ヒソヒソ私語に対して迷惑に思っている学生がいて,それに対して教員が注意をしないというクレームが結構ある」「なので,ヒソヒソ私語に対してはきつめに注意している」ということを話しておくことにしています。「こっちも注意したり叱ったりするのはホント嫌なんで,そのあたり理解してくだされ」というふうに伝えておきます。

 

 まあ,「叱る」ということについては,叱る方も叱られる方も嫌なものなので,お互い叱り叱られることがないように平和に日々を過ごしたいものです・・・。

 

低気圧で天気が悪くなるのはなぜ?

 「低気圧では天気が悪くなる」ということは多くの方が知っていると思います。天気予報などで「明日は低気圧が接近してくるので天気がくずれる」というようなことも聞いたことがあると思います。しかし,「なぜ低気圧で天気が悪くなるのか」,その理由を問われたら,ちゃんと答えられる人はそう多くはないでしょう。実は,低気圧で天気が悪くなるしくみの中には気象を理解する上で基本的かつ重要な事柄が詰め込まれているので,このしくみの理解を通して気象の大事な基本を「効率的に」学ぶことができます。

 

 というわけで,今回の記事では,「低気圧で天気が悪くなる理由」について語ってみたいと思います。今回の話を理解するにあたり前提となる知識として「雲ができるしくみ」を理解しておいていただきたいです。これについては以下の3つの記事で解説しておりますので,本記事をお読みになる前にぜひこれらの記事に目を通していただければと思います。

 

yyamane.hatenablog.com

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 まず,「天気が悪い」ってどういうことでしょうか。「天気なあ,アイツほんま悪いやつや。金遣い荒いし」・・・・,というような悪いという意味ではなく(笑)。天気が悪い状況というのは,曇っていたり雨がふってたりするということですよね。曇っているというのは空が雲に覆われている状況であり,雨が降っている時も雲に覆われてその雲から雨が降ってきている。つまり,天気悪い状況とは空に雲が多く生じているということです。よって,低気圧で天気が悪くなるということは,どうも低気圧というところでは雲ができやすいということになります。では,どうして低気圧で雲ができやすいのか。

 

 ところで,そもそも「低気圧」って何?これについてもちゃんと説明できる人は少ないでしょう。「低気圧」の「気圧」は大気圧のことであり,低気圧とは大気圧の低いところということ。大気圧については上で紹介した3つの記事の中で3つ目の記事【その3】の中で解説しております。

 

 天気予報を見ているとよく出てくる天気図。天気図の中に描かれているウニョウニョした線,これを等圧線といいます。等圧線とは大気圧が等しいところを連ねた線です。例えば,1000hPa(ヘクトパスカルと読む。大気圧の単位です)の等圧線のところはどこも等しく大気圧が1000hPaということ。地形図における等高度線と同じような考え方に基づくものです。等高度線とは標高の等しいところを連ねた線です。この等高度線の分布で地形の起伏が把握できます。同じように,等圧線の分布から大気圧の高い所や低い所といった分布の様子を知ることができます。

 

 等圧線が閉じていて(閉じるとは,線をある点から書き始めていって再び書き始めた点に戻ってきてつながることをいいます),その閉じた等圧線で囲まれたところの中心ほど気圧が低いところを「低気圧」といいます。逆に,閉じた等圧線でで囲まれたところの中心ほど気圧が高いところを「高気圧」といいます。

 

 地上の低気圧では,風は反時計回り(時計の針の進む方向と反対の方向の回転)に回転しつつ,中心に吹き込む形で吹いています。なぜこのような吹き方をしているのか,少々説明を。空気は大気圧の高い方から低い方に流れる性質があります。大気圧は上に乗っかっている空気の重みの力。例えば,1000hPaの大気圧で右から,999hPaの大気圧で左から押される空気の塊を考えると,右からの大気圧の力の方が左の方からの大気圧より1hPa大きい。その右からの1hPaの力を受けて右に動く,つまり大気圧のより大きい右の方から大気圧のより小さい左の方に空気は動いていくわけです。低気圧のところでは中心ほど大気圧が低く中心から離れて外側ほど大気圧が高いので,低気圧の外側から中心の方に力が働いて空気が動く,つまり中心に向かって風が吹くことになります。さらに,自転という回転する地球上にある大気には転向力という力が働きます。転向力は北半球では物体の進む方向に対して右向きに働く性質があります(これについては,かなりややこしいのでここでは説明は割愛。まあ,そういうものだと思ってください)。よって,外から中心に向かいつつ右方向に転向力を受けつつ空気は動いていく,すなわち低気圧では風は中心に向かいつつ反時計回りに吹くことになります。

 

 このように地上の低気圧では,空気が外から中心に(反時計回りに回転しつつ)集まってくることになります。中心に集まり続け溜まりに溜まった空気はどうなる?地上の低気圧ですから,地上に潜り込むこともできず。仕方なく上に上に逃げ場を求めて動いていく,つまり上昇気流が生じることになります。このように,地上の低気圧の中心付近では上昇気流が生じることになります。ちなみに,地上の高気圧で起こっていることは地上の低気圧とは逆。風の吹き方は中心から外に時計回りに回りつつ吹く。そして高気圧の中心では下降気流が生じる。なぜそうなるかは練習問題として考えてみてください。

 

 低気圧の中心では上昇気流が生じ,そして上昇気流があるところでは雲が発生します。上昇気流と雲の発生の関係については上記3つの記事のうちの【その3】を読んでみてください。簡単に説明すると,地上の低気圧の中心の空気が上昇する→上昇した空気の塊はより大気圧の低い上空で膨張する→膨張すると温度が下がる(断熱膨張より温度の低下)→温度が下がると水蒸気で飽和する→水滴,つまり雲が発生する,ということになります。というわけで,低気圧の中心では雲が発生しやすく天気が悪くなるというわけです。

 

 以上のように,低気圧で天気が悪くなる仕組みの理解の中には,

  • 雲の発生
  • 低気圧,高気圧とは何か
  • 風の吹き方

といった気象の基本的かつ重要な事柄が含まれており,よってこの一つのテーマの理解を通して気象の大事なキホンを学べるというわけです。

 

 上記の低気圧で天気が悪くなるしくみについての説明を以下の図にまとめてみました。

 

雲ができるしくみ~その3(お菓子の袋が山頂で膨らむわけ,空気は膨らむと冷える,そして雲のできるしくみ)

 「雲ができるしくみ」シリーズその3です。これまでのその1,その2の記事は以下をご覧ください。

 

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 その1では,「雲はそもそも何でできているのか」という話をしました。雲は水(液体)や氷(固体)でできているというのがその結論。その2では「冷たい飲み物が入ったコップの表面に水滴ができるわけ」について解説しました。空気中に含むことができる水蒸気(気体)の量には限りがあり,これを「飽和水蒸気量」ということ,飽和水蒸気量は温度が高い(低い)ほど大きく(小さく)なるという特徴があり,温度が低い空気ほど飽和水蒸気量が小さいので,含むことができる水蒸気量が少なくなる,含めなくなった水蒸気は液体の水となる。よって,冷たい飲み物が入ったコップの表面付近の空気が冷やされて,含み切れなくなった水蒸気が水となり,この水がコップの表面に付着するということでした。

 

 以上の話に続き,今回は一気に雲ができるしくみまでを解説していきたいと思います。

 

 ポテチなどの袋入りのお菓子を麓から山頂の方の標高の高いところに持っていくと袋がパンパンに膨らみます。これは多くの方が経験したことがあると思います。飛行機で上空の高いところに行くと,機内に持ち込んだペットボトルがパンパンに膨らんでいることを経験された方いるでしょう。いずれもパンパンになる理由は同じです。この現象の主役は「大気圧」です。

 

 私たちの回りには,目には見えませんが空気がたくさんあって,この空気はずっと上空の方まであります。空気は上空ほど薄くなり,ずっと高いところで空気がなくなるところが大気圏のおわりです。

 

 我々の回りを取り巻いてずっと上空まである空気の重みが「大気圧」です。もう少しちゃんと定義を言うと,1平方メートルあたりの空気の重みが大気圧です。地上における1平方メートルあたりの空気の重みが地上の大気圧となります。この地上における1平方メートルあたりの空気の重み,実は10.3トンの物体から受ける重みと同じくらいなんです。こんなとてつもない大きさの重みを地上で我々は大気圧としてうけているわけで,なんで大気圧で押しつぶされないのでしょうか?(ここではその理由について述べませんが,興味がありましたらぜひ調べてみてください)。

 

 地上でうける空気の重みが地上での大気圧。地上からある高さのところでは,その高さより上にある空気から受ける重みがその高さにおける大気圧になります。空気は上空どこまで行ってもずっとあるわけでなく,上に行けば行くほど薄くなって大気圏の終わりでなくなります。ということは,高い所ほどそこより上にある空気の量は減るわけで,のっかってくる空気の重みも減ります。つまり,高いところほど大気圧は小さくなります。

 

大気圧は高さとともに小さくなる。

 

 地上にあるポテチの袋(ポテチポテチと書いています,別にポテチでなくてもいいのですよ)はその周りをとりまく空気から大気圧という力を受けて押されています。ポテチの袋を標高の高いところに持っていくと,高いところほど大気圧は小さくなるので,ポテチの袋を取り巻いている周りの空気から押される大気圧が小さくなる,つまり袋を外から押す大気圧の力が地上にあった時よりも小さくなるので袋は膨らんでしまうということです。飛行機で上空に行ったときペットボトルが膨らむのも同じ理由。上空ほど大気圧が小さくなるので,ペットボトルをまわりから押す大気圧の力が上空で小さくなって膨らんでしまうということです。

 

 ここで空気の塊というものを考えます。わかりにくければ,透明な風船に空気がパンパンに入って膨らんだものを思い浮かべてください。この空気の塊も,標高の高いところに行くと膨らみます。地上にある空気の塊は上昇するとどんどん膨らむわけです。

 

 空気の塊が膨らむと,さらに別の現象が起こります。それは何かと申せば,空気は膨らむと温度が下がるのです。ただし,空気の塊に対して熱の出入りがないこと(外から空気の塊に熱が加えられたり,逆に空気の塊から外に熱が逃げたりということがないということ)という条件の下での話です。これを断熱膨張といいますが,空気は断熱膨張すると温度が下がるのです。

 

 空気は膨らむと冷える!

 

 空気の塊が膨らむということは,それを取り巻く空気を押し退けて膨らむということ。取り巻く周囲の空気に対して力を加えて外に外に動かすということです。物理では,このように物体に力を加えてある距離だけ動かすことを「仕事」といいます。「仕事=加える力×動かす距離」で定義されます。そして仕事をする能力を「エネルギー」といいます。エネルギーを持っているということは,仕事をする能力を有しているということです。空気の塊がどれだけのエネルギーを有しているのかを表しているのが温度です。温度が高い空気の塊はそれだけ多くのエネルギーを有していると言えます。断熱の条件で空気の塊が膨らむ場合,空気には外から熱という形でエネルギーが与えられないので,膨らむために必要なエネルギーは空気の塊自身がもっているエネルギーを使って膨らむ(取り巻いている周りの空気に対して力を加えて押し退けて仕事をする)ことになります。自らもつエネルギーを使ってしまいそれが減ってしまうので温度が下がることになります。これが断熱膨張で空気の塊の温度が下がる仕組みです。例えて言うと,100円の貯金を持っていて(貯金が空気の塊が持っているエネルギー),もし誰からもお金が与えられない状況(断熱という条件)で50円のお菓子を買うとすると(仕事をするということ),持っている貯金からお金を払うことになり(自らもつエネルギーを使って仕事をするということ),貯金は100円―50円=50円に減ってしまう(自ら持っていたエネルギーが減り温度が下がる)という感じです。

 

 さて,ここから,いよいよ雲発生のしくみについての説明です。ここまでの長い道のり,お疲れさまでした!あともう一歩です。

 

 地上にある空気の塊を想像してください。この空気には水蒸気が含まれています。この水蒸気を含んだ空気が上昇して高い所に行く。すると,高い所ほど大気圧は小さくなるから空気の塊は膨張する。膨張すると空気の塊の温度が下がる。どんどん上昇してどんどん膨張してどんどん温度が下がるとある高さにおいて空気の塊は水蒸気で飽和してしまいます。その高さ以上に上昇するとさらに冷えて,水蒸気として含み切れなくなったものが水滴として出てくる,これが雲となるわけです。

 

 ここまでの話を図にまとめてみました。

 

 

 

 ここまでの話をご理解いただくと,「空気が上昇しないと雲はできない」ということがおわかりいただけると思います。雲の発生には上昇気流が必要不可欠です。空気が上昇するしくみは色々ありまして,

 

  1. 地面が日射で熱せられて暖かくなり,地面の上の空気も暖められて軽くなって上昇していく。
  2. 風が山に吹きつけると,山にぶち当たった空気は強制的に上昇させられて上昇気流ができる。
  3. 地上の低気圧の中心付近には空気が集まってくる。集まってきた空気が逃げ場を求めて上に上に行く。このようにして上昇気流ができる。

 

3.の地上の低気圧で上昇気流ができるしくみについては,別の記事(低気圧で天気が悪くなる理由)で解説したいと思います。