大学教員,科学と教育と音楽について語る

大学教員(気象予報士)でありギター弾きのワタシが,天気に科学に教育に音楽に,日々思う雑感を語ります。

私が地学,そして気象学の研究を志したわけ

 私は現在,大学で主に地学に関する講義を担当しております。地学の内容を幅広く全般的に含んだ講義をしておりますが,自分自身の専門は気象学です。大学院の気象分科を受験するにあたり,気象学の科目だけでなく地質学などの色々な科目も選択する必要があったこともあり,大学生の時は地学を全般的に勉強しておりました。その時に「へえ~」と思ったことなんかも交えながら日々講義しております。地学がカバーする範囲は地震や地形,岩石,化石,気象,天文といった感じで大変広い。しかし,これらはバラバラではなくつながりをもっています。例えば,地形はそれを作っている岩石や過去の地震,気象や気候の影響を受けて作られていたりする。地形がどのようにしてできてきたのか,そのプロセスの理解に化石が大きな手掛かりになることもあります。また,地形の形成に影響する気候は,地球の自転軸の傾きやその変化といった天文学的要因で変動します。このように様々なことが絡み合ったシステムの中で色々な地学現象が生じている。広範に及び一見するとバラバラのように見える地学,実はそれぞれに繋がりあり,ここが地学を学ぶ魅力でもあります。

 地学のもう一つの魅力,それは現象が今まさに眼前でダイナミックに展開されているということ。眼前に広がる3000メートル級の険しい山々,蒸し暑い真夏に突然発生する激しい雷鳴,激しい風と雨を伴う台風,夜空に輝く恒星,地学現象はでっかいスケールで我々の身近で展開されています。その身近さとスケールの大きさは,時には大きな感動をよび,時には甚大な被害をもたらす。魅力と脅威が表裏一体というのも地学現象の大きな特徴の一つでしょう。

 さて,地学の魅力をエラソーに書いてみましたが,実は私,大学生の2年生ごろまでは地学をやろうなんてちっとも思っていませんでした。大学に入学したときは素粒子物理学を勉強したいと思っていました。高校でも理科は物理と化学の選択。地学を選択するという考えは1ミリもありませんでした。

 そんなワタクシが地学をやろうと思うきっかけとなったのは,大学2年生の冬だったでしょうか,今の妻と岐阜県平湯温泉に行ったことです。もちろん素晴らしい温泉も十分楽しんだのですが,たまたま入った資料館のようなところが運命の場所でした。ここでは周辺の北アルプスなどの地質について解説する展示があり,これらの展示自体は特に目新しいものでもなくオーソドックスな感じのものだったのですが,すぐ目の前に広がっている北アルプスの山々の下でこんなことが今まさに起こっているのか!と思うと,いたく感動してしまって,「地学オモロイやん!」と思ってしまった。これが地学をやろうと思ったキッカケになったのです。ところで,この平湯温泉への旅行,実は私は最初あまり乗り気ではなく,「まあ,しゃーないし行ってみるか」という感じでした。行く気満々で行ったわけでもない旅行でこんな運命的な出会いがあるのですから,人生何があるかわからないものです。

 この平湯温泉への旅行をきっかけに,3年生からの卒業研究のゼミは地学系の研究室にしようと決めました。実は私,当時所属は物質科学専攻でして,その専攻にいながら地学系の研究室に所属するというのは異色でした。さて,地学系の研究室で卒業研究をすることを決め,具体的にどんなことをやろうかと考えた結果,「竜巻」の研究をしたいと思うようになりました。え,竜巻,なんで?北アルプスを見て地学やろうとおもったのだから地質学とかではないの?と思われたかもしれません。実は,気象には幼少から興味関心がありました。外で雷が鳴り始めるとベランダに出てずっと黒い雲を眺め稲妻を見て「おおー!」と一人興奮しておりました。台風が接近してきて風がどんどん強くなっていく時に外に出て風の強さを感じたり。しかし,これらの行動は防災上は全くもって良くないことなので,良い子はマネはしないように。竜巻については,幼少の時に叔父からプレゼントされた「科学物知り百科」というようなタイトルの漫画をよく読んでいて,この本に書かれてた竜巻のことがなぜか記憶にずっと残っていて,なんでこんな奇妙な現象が起きるのか,ずっと心のどこかで不思議に思っていたのです。そういう幼少期からの背景もあり,地学系で卒業研究として何をするか考えていったときに,気象,そして竜巻をやるというのが沸々と出てきたわけです。

 以上が私が地学,そして気象学を志した経緯でございます。

 最後に大学時代に気象学を学んでいた時の印象深い出来事を。ある夜,気象学を勉強する人ならばまず最初に読むテキストとして定番の「一般気象学」を読んでいました。この本のメソスケール現象について書かれた章の中の積乱雲の中の話,特に積乱雲の中で冷気が作られそれが地上に吹き下ろしてくる(冷気外出流)という話を読んでいるときに,ふと外を見ると雷雨が。この本で読んでいることが今まさに空に広がる雲の中で起こっているのかと思うと,いたく感動してしまい,気象学により興味関心をもつ出来事になりました。

 気象学,そして地学の魅力は,我々の身近の眼前でダイナミックに現象が展開されることです。その魅力ゆえ今に至るまで,まあ長々とお付き合いをさせていただいているわけです。この気象の魅力を肌で感じ続けられるよう,できるかぎりフィールドに出て研究を続けていきたい,そしてその魅力と感動を講義の中で学生に伝えていきたいと思っています。