大学教員,科学と教育と音楽について語る

大学教員(気象予報士)でありギター弾きのワタシが,天気に科学に教育に音楽に,日々思う雑感を語ります。

雲ができるしくみ~その2(コップの表面に水滴が付くわけ)

 さて,雲ができるしくみシリーズ「その2」です。「その1」では「雲は何からできているのか」ということについて説明しました。こちらの記事は以下のとおりです。

yyamane.hatenablog.com

 「その1」の結論,雲は水や氷からできているということでした。では,雲を作っている水や氷がどうやってできるのか,という話なのですが,このことを理解するために,まず「コップの表面に水滴が付くわけ」について説明したいと思います。キンキンに冷えたジュース(お酒好きな方はビールを想像してください)が入ったコップの表面に水滴が付くことは多くの方が知っていると思います。では,なぜ水滴がつくのでしょうか。コップの中に常温の水やお茶,暖かい飲み物が入っているときに水滴はつかないですね。中に入っている飲み物が「冷たい」ということがカギのようですね。

 空気中には水蒸気が含まれています。「水蒸気」とは何か,ということについては,上記の記事(雲ができるしくみ~その1),または下記の「物の状態を原子と分子でイメージしよう」をぜひご一読ください。

yyamane.hatenablog.com

 簡単に説明すると,水蒸気は水分子(H2O分子)が目にもとまらぬ速さで動きまくっている気体の状態のものです。目にもとまらぬ速さで,ということですから,空気中に含まれる水蒸気は目に見えません。ただ,目には見えませんが「体で感じる」ことはできます。空気中に水蒸気がたくさん含まれている場合,私たちは蒸し暑さを感じます。逆に,空気中に水蒸気があまり含まれていない場合,肌がカサカサしたりします。空気が湿っていてジメジメする,と体で感じる場合は空気中に水蒸気が多く含まれている状態,肌がカサカサしたりのどが渇きやすかったり,髪の毛がパサパサするという場合は,空気が乾燥していて含まれる水蒸気が少ない状態ということです。

 このように目には見えませんが空気中に水蒸気が含まれており,その多い少ないを我々は様々な形で体感することができます。では,水蒸気は空気中にどこまでも無尽蔵に含むことができるのか。実は空気の中に含むことができる水蒸気の量には限りがある。定員があるのです。この空気中に含むことができる最大限の水蒸気の量を「飽和水蒸気量」といいます。水蒸気の乗車定員みたいなものです。ただ,この飽和水蒸気量には人間がのるバスの乗車定員とは大きく違う特徴をもっています。それは温度が高いと飽和水蒸気量は大きくなり,逆に温度が低いと飽和水蒸気量は小さくなるということ。バスの乗車定員が気温が高いと多くなる,気温は低いと少なるなるということはありません。でも水蒸気の乗車定員である飽和水蒸気量は温度に左右されるという特徴がああるわけです。つまり,温度が高い空気はよりたくさんの水蒸気を含むことができ,温度が低い空気はあまり多くのの水蒸気を含むことができないということになります。

 我々がよく目にする湿度,空気の湿り気の目安として使われます。湿度とはある温度での飽和水蒸気量に対して実際に含まれている水蒸気の量の割合(%)として定義されています。例えば,温度30℃の空気が1㎥あたり15.2gの水蒸気量を含んでいる場合,この空気の湿度はどうなるか。まず30℃の空気の飽和水蒸気量は1㎥あたり30.4gです。この空気が1㎥あたり15.2gの水蒸気を含んでいるので,湿度は(15.2/30.4)×100=50%となります。つまり,最大限含むことができる水蒸気量(飽和水蒸気量)のうちその半分(50%)の水蒸気量を含んでいる状態ということです。湿度はバスの乗車率のようなもの。定員20名のバスに10名乗っている場合の乗車率は(10/20)×100=50%ですね。定員の半分が乗車している状態。定員20名のバスに20名が乗っている場合は乗車率は100%です。30℃の空気が飽和水蒸気量である1㎥あたり30.4gの水蒸気を含んでいる場合,湿度は(30.4/30.4)×100=100%となり,「もう水蒸気でお腹一杯!」という状態。ちなみに,この「水蒸気でお腹一杯」の状態を飽和といいます。飽和水蒸気量は水蒸気の定員(ただし温度によって左右される),湿度は水蒸気の乗車率です。

 飽和水蒸気量は温度に左右され,温度が低くなると小さくなります。ということは,ある温度で飽和していない状態(まだまだ水蒸気でお腹一杯ではない状態)でも,どんどん温度が下がっていくと,どこかの温度で飽和になるということです。例えば,30℃で1㎥あたり17.3gの水蒸気を含んでいる空気を考えます。この空気の湿度は(17.3/30.4)×100=56.9%であり,まだ水蒸気を含むことができる状態です(まだ30.4g-17.3g=13.1g含むことができる状態)。この30℃の空気を20℃にまで冷やしたとします。20℃での飽和水蒸気量は1㎥あたり17.3gです。ということは,30℃で17.3gの水蒸気を含んでいた空気が20℃まで冷えると,湿度が(17.3/17.3)×100=100%で飽和の状態になります(ちなみに,冷やしていって飽和に達する温度を露点温度といいます)。30℃では17.3gの水蒸気なんて余裕で食べることができていたのに(まだ13.1g食べられるよ!って感じ),20℃になるとその余裕で食べていた量(17.3g)が満腹になる限界になってしまうということです。

 飽和に達した後,さらに空気を冷やすとどうなるか。例えば10℃まで冷やしたとしましょう。10℃での飽和水蒸気量は1㎥あたり9.4gです。30℃で1㎥あたり17.3gの水蒸気を含んだ空気は20℃で飽和に達し,10℃にまで冷えると10℃での飽和水蒸気量は9.4gなので,もともと含んでいた17.3gのうち9.4gは水蒸気として含むことができるが,残り(17.3g-9.4g=7.9g)は水蒸気として空気の中に含むことができず,これが液体の水(水滴)としてでてくることになります(満腹の限界を超えた水蒸気は,これ以上お腹に入らないので,水滴という形でゲロゲロ吐いてしてしまう,という感じ)。つまり,「空気を冷やしていくとその空気に含み切れなくなった水蒸気が水滴として出てくる」ということです。このことの本質は,空気が最大限含むことができる水蒸気の量である飽和水蒸気量が温度が下がるとともに小さくなるということです。

 ここまで長文にお付き合いありがとうございます!いよいよ「コップの表面に水滴がつくわけ」の説明です。冷たい飲み物が入ったコップの表面付近の空気は冷やされます。すると,コップ表面付近の空気の中に含み切れなくなった水蒸気が水滴として出てきて,それがコップの表面に付着するというわけです。

 ここまでの文章での説明を手書きの図にまとめました(汚くてスイマセン)。

 さて,ここで説明したコップの表面に水滴がつくしくみの考え方ですが,同じ考え方で他の色々な現象を説明することができます。例えば,冬の寒い日に暖房のきいた部屋の窓ガラスが曇るということ。この場合,冷たい外気に触れた窓ガラスはキンキンに冷えていて,このガラス付近の空気も冷やされている。部屋の中の空気は暖房がきいて温度が高く,(温度が高いほど飽和水蒸気量も多いので)水蒸気量も比較的多く含まれている。しかし,外気にふれた冷たい窓ガラスの部屋側の表面付近の空気も冷やされているので,含み切れなくなった水蒸気が水滴となってでてきて,これがガラスの表面に付着して「ガラスが曇る」というわけです。

 このように,自然科学では一つの考え方や概念,理論や法則で色々なことが説明されます。色々なことを説明できるからその考え方や概念,理論や法則は真理として受け入れられるわけです。ということは,ある一つの考え方や概念,理論や法則では説明できない新しい現象が発見されると,その考え方や概念,理論や法則は改めて検証され,その結果修正されたりひっくり返されて新しい理論が打ち出されたりするわけです。理科は暗記科目ということを言う人がいますが,それは色々な現象を一つ一つ別個バラバラにしくみを理解しよう(覚えよう)とするからであり,一つの考え方でいろいろなことが説明できるということがわかれば「暗記科目」とは言えないということが理解できるでしょう。一つの考え方や概念,理論や法則で色々なことが説明できるというところに自然科学の本質,面白さがあります。

 まだまだ雲ができるしくみの理解のための説明は続きます。続きは「その3」で。