大学教員,科学と教育と音楽について語る

大学教員(気象予報士)でありギター弾きのワタシが,天気に科学に教育に音楽に,日々思う雑感を語ります。

低気圧で天気が悪くなるのはなぜ?

 「低気圧では天気が悪くなる」ということは多くの方が知っていると思います。天気予報などで「明日は低気圧が接近してくるので天気がくずれる」というようなことも聞いたことがあると思います。しかし,「なぜ低気圧で天気が悪くなるのか」,その理由を問われたら,ちゃんと答えられる人はそう多くはないでしょう。実は,低気圧で天気が悪くなるしくみの中には気象を理解する上で基本的かつ重要な事柄が詰め込まれているので,このしくみの理解を通して気象の大事な基本を「効率的に」学ぶことができます。

 

 というわけで,今回の記事では,「低気圧で天気が悪くなる理由」について語ってみたいと思います。今回の話を理解するにあたり前提となる知識として「雲ができるしくみ」を理解しておいていただきたいです。これについては以下の3つの記事で解説しておりますので,本記事をお読みになる前にぜひこれらの記事に目を通していただければと思います。

 

yyamane.hatenablog.com

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 まず,「天気が悪い」ってどういうことでしょうか。「天気なあ,アイツほんま悪いやつや。金遣い荒いし」・・・・,というような悪いという意味ではなく(笑)。天気が悪い状況というのは,曇っていたり雨がふってたりするということですよね。曇っているというのは空が雲に覆われている状況であり,雨が降っている時も雲に覆われてその雲から雨が降ってきている。つまり,天気悪い状況とは空に雲が多く生じているということです。よって,低気圧で天気が悪くなるということは,どうも低気圧というところでは雲ができやすいということになります。では,どうして低気圧で雲ができやすいのか。

 

 ところで,そもそも「低気圧」って何?これについてもちゃんと説明できる人は少ないでしょう。「低気圧」の「気圧」は大気圧のことであり,低気圧とは大気圧の低いところということ。大気圧については上で紹介した3つの記事の中で3つ目の記事【その3】の中で解説しております。

 

 天気予報を見ているとよく出てくる天気図。天気図の中に描かれているウニョウニョした線,これを等圧線といいます。等圧線とは大気圧が等しいところを連ねた線です。例えば,1000hPa(ヘクトパスカルと読む。大気圧の単位です)の等圧線のところはどこも等しく大気圧が1000hPaということ。地形図における等高度線と同じような考え方に基づくものです。等高度線とは標高の等しいところを連ねた線です。この等高度線の分布で地形の起伏が把握できます。同じように,等圧線の分布から大気圧の高い所や低い所といった分布の様子を知ることができます。

 

 等圧線が閉じていて(閉じるとは,線をある点から書き始めていって再び書き始めた点に戻ってきてつながることをいいます),その閉じた等圧線で囲まれたところの中心ほど気圧が低いところを「低気圧」といいます。逆に,閉じた等圧線でで囲まれたところの中心ほど気圧が高いところを「高気圧」といいます。

 

 地上の低気圧では,風は反時計回り(時計の針の進む方向と反対の方向の回転)に回転しつつ,中心に吹き込む形で吹いています。なぜこのような吹き方をしているのか,少々説明を。空気は大気圧の高い方から低い方に流れる性質があります。大気圧は上に乗っかっている空気の重みの力。例えば,1000hPaの大気圧で右から,999hPaの大気圧で左から押される空気の塊を考えると,右からの大気圧の力の方が左の方からの大気圧より1hPa大きい。その右からの1hPaの力を受けて右に動く,つまり大気圧のより大きい右の方から大気圧のより小さい左の方に空気は動いていくわけです。低気圧のところでは中心ほど大気圧が低く中心から離れて外側ほど大気圧が高いので,低気圧の外側から中心の方に力が働いて空気が動く,つまり中心に向かって風が吹くことになります。さらに,自転という回転する地球上にある大気には転向力という力が働きます。転向力は北半球では物体の進む方向に対して右向きに働く性質があります(これについては,かなりややこしいのでここでは説明は割愛。まあ,そういうものだと思ってください)。よって,外から中心に向かいつつ右方向に転向力を受けつつ空気は動いていく,すなわち低気圧では風は中心に向かいつつ反時計回りに吹くことになります。

 

 このように地上の低気圧では,空気が外から中心に(反時計回りに回転しつつ)集まってくることになります。中心に集まり続け溜まりに溜まった空気はどうなる?地上の低気圧ですから,地上に潜り込むこともできず。仕方なく上に上に逃げ場を求めて動いていく,つまり上昇気流が生じることになります。このように,地上の低気圧の中心付近では上昇気流が生じることになります。ちなみに,地上の高気圧で起こっていることは地上の低気圧とは逆。風の吹き方は中心から外に時計回りに回りつつ吹く。そして高気圧の中心では下降気流が生じる。なぜそうなるかは練習問題として考えてみてください。

 

 低気圧の中心では上昇気流が生じ,そして上昇気流があるところでは雲が発生します。上昇気流と雲の発生の関係については上記3つの記事のうちの【その3】を読んでみてください。簡単に説明すると,地上の低気圧の中心の空気が上昇する→上昇した空気の塊はより大気圧の低い上空で膨張する→膨張すると温度が下がる(断熱膨張より温度の低下)→温度が下がると水蒸気で飽和する→水滴,つまり雲が発生する,ということになります。というわけで,低気圧の中心では雲が発生しやすく天気が悪くなるというわけです。

 

 以上のように,低気圧で天気が悪くなる仕組みの理解の中には,

  • 雲の発生
  • 低気圧,高気圧とは何か
  • 風の吹き方

といった気象の基本的かつ重要な事柄が含まれており,よってこの一つのテーマの理解を通して気象の大事なキホンを学べるというわけです。

 

 上記の低気圧で天気が悪くなるしくみについての説明を以下の図にまとめてみました。