大学教員,科学と教育と音楽について語る

大学教員(気象予報士)でありギター弾きのワタシが,天気に科学に教育に音楽に,日々思う雑感を語ります。

季節の変化が生じるわけ

 日本には春,夏,秋,冬の四季があり,それぞれの季節特有の食べ物や行事,スポーツなどがあります。大学教員の私は,桜を見ると新学期,そして新入生が思い出されます。そんな新入生たちがそろそろ大学生活に慣れてきたかな,と思っていたらジメジメした天気の悪い日が続く梅雨がやってきます。憂鬱な梅雨が明けて暑い日々がやってくると,期末試験に成績評価。あっという間の夏休みが終わって9月中頃には後期期間が始まる。それから間もなく朝晩が冷える日が増えてきて「秋が来たな」と思いきや,それからさらに一気に時は進み,4限の講義の終わりの16時半頃にはかなり外が暗くなっていて日没が早くなったことを実感し,いよいよ冬の到来。静岡の冬は天気の良いカラっとした気持ちのいい日が多く,雪をかぶった富士山の綺麗な姿を見ることができる絶好の季節。2月の始めに後期期間が終わり春休み。春休みの中盤2月の終わりから3月の始めには梅が満開になり,鶯の鳴き声も聞こえてきたりして春はもうすぐ。卒業式を終え,桜が咲きはじめツバメを見かけるようになって,また春が来たなと思いつつ新入生をお迎え。こんな感じで一年の中で季節の変化を感じながら日々過ごしています。

 このような明瞭な季節の変化は地球上のどこでもあるものではありません。例えば,赤道直下の熱帯ではこのような明確な季節の変化がなく,基本的に年中暑いわけです。

 

 ところでこの季節の変化,どうして生じるのでしょうか。実は地球の自転軸が傾いていることが季節の変化の大きな要因なのです。

 

 地球は1日に1回自転をしています。北極と南極を通る1本の軸(自転軸)を考えると,地球はこの自転軸を中心に1日に1回自転をしています。さらに地球は太陽の周りを1年かけて1周しており,これを地球の公転といいます。地球は1日1回自転しつつ1年かけて太陽の周りを公転しているというわけです。

 上図のように,「春分夏至秋分冬至春分」という形で地球が太陽のまわりを1年かけて回っているのが地球の公転です。そして,これが重要なのですが,上の図には地球の自転軸を併せて示していますが,地球の自転軸がある角度で傾きながら公転をしています。公転によって地球の中心がえがく軌道を公転軌道といいます。この公転軌道に囲まれた面が公転面。地球の自転軸はこの公転面から66.6°の角度をもって傾いています。実はこの自転軸の傾きが季節の変化が生じることに重要な役割を果たしています。もし自転軸が傾いていなかったら季節の変化が生じなかったでしょう。

 

 自転軸は傾きながら公転をしていることにより,下の図に示すように太陽の一日の中での動き(太陽の日周運動)の仕方が一年を通して変化します(太陽の年周運動)。

 春分の日秋分の日は太陽は真東からのぼり真西に沈んでいきます。夏至の日は北東からのぼり北西に沈んでいく,冬至の日は南東からのぼり南西に沈んでいきます。太陽が真南にきて一日の中で最も高い位置にくることを南中といいます。南中したときの太陽の地面からの高さ(南中する太陽の見える方向と地面の間の角度)を南中高度といいます。上の図からわかるとおり,夏至の日の南中高度(③)は一年のうちで最も高く,冬至の日の南中高度(①)は一年のうちで最も低い。春分及び秋分の日の南中高度(②)は①と③の間の角度になります。また,太陽が出てきて沈むまでの道のりの長さは夏至の日が最も長く冬至の日が最も短い,春分秋分の日はそれらの間の長さになっています。このように,太陽が出てくる方角と沈んでいく方角,南中高度,太陽が出ている間の道のりの長さが一年を通して変化しています。これが太陽の年周運動。ちなみに,このような太陽の年周運動のパターンが見られるのは日本付近での話であり,日本付近と緯度が違う場所,例えば北極付近や赤道付近では全く違う太陽の年周運動のパターンになります。

 

 上の図で示した太陽の年周運動によって日本付近では季節の変化が生じます。ちょっと乱暴な言い方かもしれませんが,要は季節の変化というのは気温の変化と言えます。夏は暑くて冬は寒い,春と秋はそれらの間の心地よい感じの気温。そして気温は地面受ける太陽の光の量に左右されます。地面がたくさん太陽の光を受けるとそれだけ地面の温度が上がり,地面が暖まるとその上の空気も暖められて気温が上がるということです。

 夏至の日は一年の中で最も太陽が出てきて沈むまでの道のりの長さが長い。つまり,一年の中で太陽の出ている時間が最も長く,地面が太陽から光を受ける時間も最も長い。太陽の光を受ける時間が長いということはより多くの光を受けて地面がより暖まるということ。逆に冬至の日は一年の中で太陽の出ている時間が最も短く,つまり地面が太陽から光を受ける時間も最も短い。そして冬至は太陽の光を受ける時間が短いゆえに地面が夏至の時ほど暖められない。春分秋分の日においては地面が太陽光を受ける時間は夏至冬至の間で,地面の暖まり方も夏至冬至の間の程度になります。

 もう一つ,太陽の高さも地面の受ける光の量に影響します。太陽の光が高い位置から地面に入ってくるほど地面はより多くの光を受けることができます。このことについて下の図を使って説明します。

 上図の左の図は太陽の光が地面の垂直真上から差し込んでくる場合を示したもの。10という量の光が1という幅を持って地面に入ってくると考えます。この場合,地面が光を受ける幅は1。そしてこの1の幅の中で10の量の光を受ける。よって,幅1あたりの地面が受ける光の量は10です。一方,右の図は太陽の光が斜めから地面に差し込んでくる場合です。同じく10の量の光が1の幅を持って地面に入ってきます。しかし,この場合,地面が光を受ける幅は1より大きくなります。上の図で光の幅を1は実際には4cmなのですが,地面が受ける光の幅はこの図の中では実際には4.5cmになります。このように光が斜めから入ってくると光が当たる範囲が広くなります。しかし光の量は変わらず10。すると,光が斜めから入ってくる右の場合1より大きい幅に10の量の光が入ってくる。よって幅1あたりの地面の受ける光の量は10よりも小さくなります。このように,光が斜めから入ってくると地面が受ける幅1あたりの光の量が小さくなります。ここでは平面で考えたので幅1あたりという表現をしていますが,実際には光が斜めから入ってくると単位面積あたりに受ける光の量が小さくなるということになります。もし懐中電灯をお持ちでしたら,懐中電灯を真上からテーブルを照らした時と斜めから照らした時の違いを観察してみてください。斜めから照らすと真上から照らす場合よりも明るさは減るが照らされる範囲は広くなるはずです。

 以上をまとめると,

 

夏至の日:

 ①太陽の出ている間の時間が長い→地面が光を受ける時間が長い

 ②太陽の高さが高い→単位面積あたり地面が受ける光の量が多い

 →地面がより暖められその上の空気の温度(気温)もより高くなる

冬至の日:

 ①太陽の出ている間の時間が短い→地面が光を受ける時間が短い

 ②太陽の高さが低い→単位面積あたり地面が受ける光の量が少ない

 →地面があまり暖められずその上の空気の温度(気温)もあまり上がらない

春分の日秋分の日:

 夏至の日と冬至の日の間

 

というわけで,太陽の年周運動が季節の変化を生じさせるということになります。

 

 では,次のギモンとして,そもそも太陽の年周運動がなぜ起こるのか。つまり,なぜ夏至の日は冬至の日に比べて太陽の出ている時間が長く高さも高くなるのか,という疑問です。続いてこの疑問について説明していきましょう。

 

 既に示した地球の公転のようすを示した図をもう一度ご覧ください。この図の中で自転軸が太陽に対してどのようになっているか,まず春分秋分の時ですが,自転軸は太陽に対して傾いていません。図の中では春分秋分の時に自転軸は右の方に傾いているように見えますが,実は太陽の方には傾いていません。太陽と反対の方向にも傾いておらず,地球と太陽を真横から見ると自転軸が立っているように見えます。一方,夏至の時は自転軸は太陽の方に傾いています。さらに,冬至の時は自転軸は太陽の方とは反対の方向に傾いています。実は,この自転軸の太陽に対する傾き方がここでは重要となってきます。

 

 まず,春分の時の太陽の日周運動を下の図を使って説明します。

 春分の時,自転軸は太陽に対して傾いていません。地球と太陽を真横から見ると自転軸は立って見える。そして,地球の太陽の光が当たる部分と当たらない部分は(真横から見ると)自転軸を境に等しく半分半分になります。この太陽の光が当たる部分と当たらない部分が等しく半分半分の状態を北極の真上から見て,日本付近における太陽の日周運動を考えてみます。太陽の日周運動については下記の記事をぜひご一読ください。

yyamane.hatenablog.com

 日本付近の位置は上図で示したように①→②→③→④→①という形で自転に伴って反時計回りに1日で1周してきます。この1周の中で①→②→③の間は太陽の光を受けている部分を動いている昼の時間です。一方,③→④→①の間は太陽の光を受けていない部分を動いている夜の時間。上で述べたように,太陽の光が当たる部分と当たらない部分が等しく半分半分なので,①→②→③の昼間の長さと③→④→①の夜の長さは同じになります。さらに,①は夜のゾーンから昼間のゾーンに入ってくる日の出のタイミングであり東の方に太陽が見え始めてきます。特に今考えている春分の時は真東の方向に太陽が見え始めてきます。さらに,③の位置は昼から夜のゾーンに入る日の入りのタイミングであり西の方に太陽が見えなくなって沈んて行くようにみえる。そして春分の時は真西の方角に見えなくなっていくのがわかると思います。

 ②の位置は太陽が真南に見える南中の時。②の位置で南中の時の地球と太陽のようすを真横から見ると,②の位置に差し込む太陽の光の方向と地面(②の位置の地面とは,②の地点に接する面です)の間の角度が南中高度。特に今は春分に注目しているので,これは春分の日の南中高度です。

 

 さて,次は夏至の日の太陽の年周運動と南中高度を下の図を使って説明します。基本的に考え方は上述の春分の時の話と同じような感じです。

 既に述べましたが,夏至の時は自転軸は太陽の方に傾いています。このことにより,地球の太陽の光が当たる部分が北極付近では北極から太陽の反対側の方にまで広がっています。一方,南極付近では太陽の光が全く当たっていません。明らかに光の当たり方が春分と変わっていますが,これは太陽に対する自転軸の姿勢の違い(春分の時は太陽に対して傾いていない,夏至の時は太陽の方に傾いている)によります。さて,この夏至の日の様子を北極の真上から見てみましょう。日本付近の位置は①→②→③→④→①というふうに自転とともに反時計回りに1日で1周します。春分の時と同じように,①は夜から昼のゾーンに入ってくるタイミングで日の出,③は昼から夜のゾーンに入るタイミング日の入りです。①から③までが昼,③から④を経て①までが夜です。そして図を見ると明らかなように,①から③の昼の長さが③から④を経て①までの夜の長さよりも長いことがわかります。つまり,夏至の日は夜よりも昼が長い。さらに,①の位置の日の出の時に太陽が見え始めるのは北東の方向,③の位置の日の入りの時に太陽が見なくなるのは北西の方角になっています。さらに,②は太陽が真南に見える南中の時の位置ですが,この南中の時の地球と太陽を真横から見ると,夏至の時の南中高度が先に説明した春分の時の南中高度よりも大きくなっている,つまり南中高度が高くなっている(より天頂(地面に垂直真上の方向)に近い方向から太陽の光が入ってくる)ことがわかります。

 

 このように春分夏至それぞれにおける太陽の日周運動を比較すると以下の通りにまとめることができます:

 

昼と夜の長さ:

 春分→昼の長さ=夜の長さ

 夏至→昼の長さ>夜の長さ

日の出の方角:

 春分→真東

 夏至→北東

日の入りの方角:

 春分→真西

 夏至→北西

 

そして,夏至の日は春分の日に比べて太陽の出ている時間(つまり昼の時間)がより長く太陽の光を地面がより多く受ける,加えて夏至の日は春分の日に比べて太陽の高さが高いので,これによっても地面の受ける(単位面積当たりの)光の量が増える。これらのことから,夏至の日は春分の日よりも地面がより暖まってその上での空気もより暖まる,つまり気温が高くなるわけです。

 ちなみに秋分の日の状況は春分の日と全く同じ。冬至の日は夏至の日と反対に自転軸が太陽の方と反対の方向に傾いている。これにより,日本付近では昼の長さが夜の長さに比べて短くなり,日の出の時に太陽の見え始める方向が南東,日の入りの時に太陽が見えなくなる方向は南西になります。さらに冬至の南中高度は一年で最も低くなります。昼の時間が短く太陽の高さが低いゆえ,地面が受ける太陽の光の量が減って地面があまり暖まらずその上の空気もあまり暖まらず気温も上がりにくいわけ。練習問題として,冬至の時の状況について上の夏至の時の図を参考にしながらご自身で図を書きながら理解を深めてみてください。

 

 以上,とっても長文になってしまいましたが,まとめると,

 

地球はその自転軸が傾きながら太陽の周りを公転しており,これにより太陽の一日の動き(日周運動)が一年の中で変化することで季節の変化が生じる。

 

ということになります。

 

 最後に余談です。上述のとおり,現在の自転軸の傾きは公転面に対して66.6°なのですが,実はこの角度は過去ずっと同じだったわけではなく周期的に変化してきたことが知られています。自転軸の傾きは41,000年周期で大きくなったり小さくなったりしてきました。さらに自転軸はコマの首振り運動(歳差運動)のような動きもしており,この運動の周期が25,700年。要するに,自転軸の傾きは過去に周期的に変化してきたわけ。例えば,今の自転軸の傾きよりもさらに自転軸が太陽の方に傾いたとした場合,夏至の日の太陽の南中高度は今よりさらに高くなります。こんな感じで自転軸の傾きが変わると太陽の光の受け方が変わる。光の受け方が変わると地面の受ける光の量も変わり地面の暖まり方が変わり,そして地面の上の空気の暖まり方も変わる。そして気温の変化の仕方が変わり気候が変化してくる。すなわち,自転軸の傾きの変化が地球の気候の変動をもたらすわけです。過去には地球の気候は今よりもかなり温暖であったり,逆に氷河期と呼ばれるように寒冷であったり気候は変動してきたことが知られています。このような気候の変動の要因の一つに自転軸の傾きの周期的な変化があります。