大学教員,科学と教育と音楽について語る

大学教員(気象予報士)でありギター弾きのワタシが,天気に科学に教育に音楽に,日々思う雑感を語ります。

雲ができるしくみ~その3(お菓子の袋が山頂で膨らむわけ,空気は膨らむと冷える,そして雲のできるしくみ)

 「雲ができるしくみ」シリーズその3です。これまでのその1,その2の記事は以下をご覧ください。

 

yyamane.hatenablog.com

yyamane.hatenablog.com

 

 その1では,「雲はそもそも何でできているのか」という話をしました。雲は水(液体)や氷(固体)でできているというのがその結論。その2では「冷たい飲み物が入ったコップの表面に水滴ができるわけ」について解説しました。空気中に含むことができる水蒸気(気体)の量には限りがあり,これを「飽和水蒸気量」ということ,飽和水蒸気量は温度が高い(低い)ほど大きく(小さく)なるという特徴があり,温度が低い空気ほど飽和水蒸気量が小さいので,含むことができる水蒸気量が少なくなる,含めなくなった水蒸気は液体の水となる。よって,冷たい飲み物が入ったコップの表面付近の空気が冷やされて,含み切れなくなった水蒸気が水となり,この水がコップの表面に付着するということでした。

 

 以上の話に続き,今回は一気に雲ができるしくみまでを解説していきたいと思います。

 

 ポテチなどの袋入りのお菓子を麓から山頂の方の標高の高いところに持っていくと袋がパンパンに膨らみます。これは多くの方が経験したことがあると思います。飛行機で上空の高いところに行くと,機内に持ち込んだペットボトルがパンパンに膨らんでいることを経験された方いるでしょう。いずれもパンパンになる理由は同じです。この現象の主役は「大気圧」です。

 

 私たちの回りには,目には見えませんが空気がたくさんあって,この空気はずっと上空の方まであります。空気は上空ほど薄くなり,ずっと高いところで空気がなくなるところが大気圏のおわりです。

 

 我々の回りを取り巻いてずっと上空まである空気の重みが「大気圧」です。もう少しちゃんと定義を言うと,1平方メートルあたりの空気の重みが大気圧です。地上における1平方メートルあたりの空気の重みが地上の大気圧となります。この地上における1平方メートルあたりの空気の重み,実は10.3トンの物体から受ける重みと同じくらいなんです。こんなとてつもない大きさの重みを地上で我々は大気圧としてうけているわけで,なんで大気圧で押しつぶされないのでしょうか?(ここではその理由について述べませんが,興味がありましたらぜひ調べてみてください)。

 

 地上でうける空気の重みが地上での大気圧。地上からある高さのところでは,その高さより上にある空気から受ける重みがその高さにおける大気圧になります。空気は上空どこまで行ってもずっとあるわけでなく,上に行けば行くほど薄くなって大気圏の終わりでなくなります。ということは,高い所ほどそこより上にある空気の量は減るわけで,のっかってくる空気の重みも減ります。つまり,高いところほど大気圧は小さくなります。

 

大気圧は高さとともに小さくなる。

 

 地上にあるポテチの袋(ポテチポテチと書いています,別にポテチでなくてもいいのですよ)はその周りをとりまく空気から大気圧という力を受けて押されています。ポテチの袋を標高の高いところに持っていくと,高いところほど大気圧は小さくなるので,ポテチの袋を取り巻いている周りの空気から押される大気圧が小さくなる,つまり袋を外から押す大気圧の力が地上にあった時よりも小さくなるので袋は膨らんでしまうということです。飛行機で上空に行ったときペットボトルが膨らむのも同じ理由。上空ほど大気圧が小さくなるので,ペットボトルをまわりから押す大気圧の力が上空で小さくなって膨らんでしまうということです。

 

 ここで空気の塊というものを考えます。わかりにくければ,透明な風船に空気がパンパンに入って膨らんだものを思い浮かべてください。この空気の塊も,標高の高いところに行くと膨らみます。地上にある空気の塊は上昇するとどんどん膨らむわけです。

 

 空気の塊が膨らむと,さらに別の現象が起こります。それは何かと申せば,空気は膨らむと温度が下がるのです。ただし,空気の塊に対して熱の出入りがないこと(外から空気の塊に熱が加えられたり,逆に空気の塊から外に熱が逃げたりということがないということ)という条件の下での話です。これを断熱膨張といいますが,空気は断熱膨張すると温度が下がるのです。

 

 空気は膨らむと冷える!

 

 空気の塊が膨らむということは,それを取り巻く空気を押し退けて膨らむということ。取り巻く周囲の空気に対して力を加えて外に外に動かすということです。物理では,このように物体に力を加えてある距離だけ動かすことを「仕事」といいます。「仕事=加える力×動かす距離」で定義されます。そして仕事をする能力を「エネルギー」といいます。エネルギーを持っているということは,仕事をする能力を有しているということです。空気の塊がどれだけのエネルギーを有しているのかを表しているのが温度です。温度が高い空気の塊はそれだけ多くのエネルギーを有していると言えます。断熱の条件で空気の塊が膨らむ場合,空気には外から熱という形でエネルギーが与えられないので,膨らむために必要なエネルギーは空気の塊自身がもっているエネルギーを使って膨らむ(取り巻いている周りの空気に対して力を加えて押し退けて仕事をする)ことになります。自らもつエネルギーを使ってしまいそれが減ってしまうので温度が下がることになります。これが断熱膨張で空気の塊の温度が下がる仕組みです。例えて言うと,100円の貯金を持っていて(貯金が空気の塊が持っているエネルギー),もし誰からもお金が与えられない状況(断熱という条件)で50円のお菓子を買うとすると(仕事をするということ),持っている貯金からお金を払うことになり(自らもつエネルギーを使って仕事をするということ),貯金は100円―50円=50円に減ってしまう(自ら持っていたエネルギーが減り温度が下がる)という感じです。

 

 さて,ここから,いよいよ雲発生のしくみについての説明です。ここまでの長い道のり,お疲れさまでした!あともう一歩です。

 

 地上にある空気の塊を想像してください。この空気には水蒸気が含まれています。この水蒸気を含んだ空気が上昇して高い所に行く。すると,高い所ほど大気圧は小さくなるから空気の塊は膨張する。膨張すると空気の塊の温度が下がる。どんどん上昇してどんどん膨張してどんどん温度が下がるとある高さにおいて空気の塊は水蒸気で飽和してしまいます。その高さ以上に上昇するとさらに冷えて,水蒸気として含み切れなくなったものが水滴として出てくる,これが雲となるわけです。

 

 ここまでの話を図にまとめてみました。

 

 

 

 ここまでの話をご理解いただくと,「空気が上昇しないと雲はできない」ということがおわかりいただけると思います。雲の発生には上昇気流が必要不可欠です。空気が上昇するしくみは色々ありまして,

 

  1. 地面が日射で熱せられて暖かくなり,地面の上の空気も暖められて軽くなって上昇していく。
  2. 風が山に吹きつけると,山にぶち当たった空気は強制的に上昇させられて上昇気流ができる。
  3. 地上の低気圧の中心付近には空気が集まってくる。集まってきた空気が逃げ場を求めて上に上に行く。このようにして上昇気流ができる。

 

3.の地上の低気圧で上昇気流ができるしくみについては,別の記事(低気圧で天気が悪くなる理由)で解説したいと思います。