大学教員,科学と教育と音楽について語る

大学教員(気象予報士)でありギター弾きのワタシが,天気に科学に教育に音楽に,日々思う雑感を語ります。

運動場のたつまきはたつまきではない?

 運動場で竜巻が発生,砂が舞い上がりテントが吹き上げられた,なんてニュースをよく見かけることはありませんか。そのようなニュースの映像をよく見てみると,青い空が広がる雲一つない晴れた日の場合が結構あります。これは竜巻ではなくつむじ風です。つむじ風は塵旋風といいます。

 竜巻は積乱雲と呼ばれる雲の下でできるはげしい渦巻。積乱雲は雷や雹といった激しい気象をもたらす雲です。最近よく耳にするゲリラ豪雨をもたらすのも積乱雲です。また,特に最近よく聞くようになった線状降水帯も積乱雲が線状に並んだものです。「運動場でたつまきが~」というニュースでは,上述のように大体天気が良い日であり,竜巻を作り出す積乱雲は見当たりません。よって大抵は竜巻ではなく塵旋風です。空気の渦巻という点では同じですが,発生メカニズムなど大きさなど竜巻とは色々と違う現象です。

 このように竜巻と塵旋風は混同して報道されることが多いのですが,実は気象の研究者でもこの違いを知らない人が結構います。以前,ある気象の研究者が「この前竜巻みたよ」と仰ってて,ただ色々話を聞いていくと竜巻ではなく塵旋風だったということがありました。この研究者の方はご専門の分野ではかなり業績を挙げている優秀な方なんですよ。気象の研究者と言っても,気象学はかなり幅広い中で細かく分かれていて,ちょっと違う話になると何も知らないということは結構あります。私だって自分の研究対象とは違う分野,例えば地球温暖化については知らないことばかりです。私の研究フィールドであるバングラデシュでは,竜巻とサイクロン(熱帯性低気圧)の混同がしばしば新聞記事などで見られます。つむじ風,竜巻,台風,まあ同じ渦巻でしょという認識の方が多いかもしれませんんが,これを機に理解を深めていただくとよいかと。

 ところで,日本で最も竜巻が発生しやすいところはどこだと思いますか。実は「沖縄県」です。竜巻の発生のしやすさを比較するとき,竜巻発生確率というものが使われます。例えばA地域とB地域で同じ10個の竜巻が発生した場合,同じ10個だからどちらも発生のしやすさは同じかといえば,実はそうとはいえません。もしA地域の方がB地域よりも面積が大きい場合,面積がより大きいA地域の方が竜巻に出会うチャンスは少なくなり,つまりA地域の方が竜巻は発生しにくいとなります。また,同じ10個でもA地域は10年で10個,B地域は1年で10個だとしたら,1年当たりの数で見ればB地域の方が10倍多く,B地域の方が発生しやすいということになります。このように,地域間で竜巻の発生のしやすさを比較する場合,ある地域の竜巻発生数をその地域の面積と竜巻の発生数を記録した年数で割ってあげて,単位面積あたり1年当たりの発生数(これが竜巻発生確率)でもって比較をします。

 日本における竜巻発生確率1位は沖縄県で「7.08」(ただし,1万平方キロメートルあたり)。2位が高知県で「1.86」なので,もうダントツです。沖縄県はそもそも竜巻の発生数自体が多いことに加えて面積が小さいことで発生確率が大きくなっているようです。実は竜巻は台風に伴って発生することがしばしばあるのですが,このため台風がよく接近通過する沖縄県で竜巻の数が比較的多いのかもしれません。日本においては,太平洋側の平野部で竜巻の発生が多いというのが1つの大きな特徴です。