大学教員,科学と教育と音楽について語る

大学教員(気象予報士)でありギター弾きのワタシが,天気に科学に教育に音楽に,日々思う雑感を語ります。

地層と化石から地球の歴史を読み解く

 地層と聞いてみなさんはどんなことをイメージしますか。きれいな縞模様の崖とか。例えば,以下の写真のような感じ。

 このような地層の縞模様はどうしてできるのか,よく考えてみると不思議です。地層の縞模様の一つ一つを詳しく観察すると,同じような色や大きさの砂や石が一つの層を作っていることに気付きます。つまり,砂や石が同じような色や粒の大きさごとにふるい分けられて,それぞれが一つ一つの層を作って積み重なっているということです。では,「誰が」砂や石をふるい分けしたのでしょうか?

 

 実は地層をペットボトルの中で簡単に作ることができます。本当に簡単なんです。色々な大きさの砂や石を含んだ土をペットボトルに入れて,さらに水を入れる。これをよ~く振って十分に混ぜ合わせます。そしておよそ1日そっと静かに放置。すると,下の写真のようにペットボトルの底に地層の縞模様ができています。

 

さて,このペットボトルの地層をよ~く観察してみますと,下の方に粒の大きなものからなる層,上の方に粒の小さなものからなる層ができていることがわかります(下の写真はペットボトルの底の地層を拡大したもの)。

 


 これは粒の大きさによって水の中で沈む速さが違うことによります。つまり,粒の大きなものほど沈む速さが速いので,まず粒の大きなものが下の方にたまってその上に次々に遅れて粒の小さいものがたまっていきます。このように地層の中で上の層ほど粒の大きさが小さい(下の層ほど粒の大きさが大きい)構造を級化層理といいます。

 つまり,お水の中では粒の大きさごとにふるい分けがなされ,粒の大きさが同じようなものどうしが層を作ってそれらの層が積み重なって地層ができるわけです。粒の大きさや密度などによって水の中で沈む速さが違う,このことによりふるい分けが行われ,同じような大きさや密度などの粒どうしで層を作ってそれらの層が積み重なって地層ができる。

 

 さて,地層の形成に関して重要な法則を紹介しておきましょう。それは,

 

1.地層累重の法則

2.水平堆積の法則

 

の二つです。

 

 地層は下から上に順に積み重なっていきます。つまり,下の層ほど時間的に先に形成され上の層ほど後にできる。すなわち,地層の中で下の方ほど古くて上の層ほど新しいということになり,これを地層累重の法則といいます。これは地層の積み重なりの中に時間の流れが刻まれているということなのです。

 上のペットボトルの地層のように,特に乱されることなく静かに地層ができる場合,地層は水平に層を成して形成されます。これを水平堆積の法則といいます。「なんや,そんなん当たり前やん」と思うかもしれません。そう,当たり前なんですが,この当たり前をちゃんと認識することが大事なんです。一体どういうことか。下の地層の写真を見てください。何か気付きますか?

写真の中ほどの崖にあらわれている地層が右上がりになっています。あれ,水平になっていませんね。この「あれ?」と思うことができるのは,地層は普通何もなければ水平にできるよね,という認識がベースにあるからなんです。地層は水平にできるはず,でもできてないやん,これは何かあったに違いない!この「何かあったに違いない」と思えるのは,地層はふつう何もなければ水平にたまるという水平堆積の法則を認識しているから。ふつうをふつうと認識しているから,ふつうから外れた異常を認識し,なぜその異常が発生したのかを調べることになる。それが新しい発見につながる。地層が右上がりになっているのはおかしい。なぜなら地層はふつう水平にできる。何があったのか?詳しい調査の結果,例えばこの地層の右側で土地の隆起があって右上がりになった,というようなことがわかったりするのです。右上がりの地層が当たり前と思ってしまっていたら土地の隆起という過去の出来事の発見には至らないわけ。実際に野外で観察される地層にはきれいに水平にできたものばかりではなく,写真のような右上がりのものや,褶曲(しゅうきょく)といってグニャっと折れ曲がったような地層があったりもします。なぜ地層が水平でなくなったのか,そこにどんな変動があったのか,その理解が土地の成り立ちの理解につながってくるわけです。

 

 さて,続いては化石の話。化石とは,昔の生き物の体や生活の痕跡が地層の中に保存されたものです。体の中でも骨や殻,歯といった硬い分は残りやすい。巣や足跡といった生き物の生活の痕跡がきれいに残って化石となることもあります。化「石」とは書きますが,氷の中で冷凍保存されたマンモスなど,別に石でなくても化石とよばれるものもあります。化石とは生命の発展の歴史を知る重要な手がかりとなるもの。

 化石は生命の歴史だけでなく地球の歴史を読み解く上でも重要な手がかりとなります。そのような地球の歴史の理解の手がかりになる化石として示相化石示準化石があります。

 示相化石とは,地層がどのような環境で形成されたのかを知る手がかりになる化石。例えば,サンゴは暖かくて浅い海に生息する生き物なので,サンゴの化石を含んだ地層もそのようなサンゴが生息する環境(暖かくて浅い海)で形成されたものと考えられます。他にも,ブナはやや寒い気候の下で生息するので,ブナの化石を含む地層もそのような気候の下で形成されたと考えられます。

 示準化石とは,地層がいつできたのかを知る手がかりになる化石。恐竜は中生代(今からおよそ2.52億年前から6600万年前までの間を中生代とよぶ)に繁栄した生き物。よって,恐竜の化石を含む地層は中生代に形成されたと考えることができます。石炭紀からペルム紀(今から3.59億年前から2.52億年前までの間)にかけて繁栄したフズリナという熱帯から亜熱帯の浅海に生息した生物の進化の過程はよくわかっていて,このフズリナの化石の種類や形態などを調べるとそれが含まれる地層のできた年代を詳しく知ることができます。

 示相化石,示準化石としてそれぞれ価値が高くなる条件があります。生息域が限られている生き物の化石は示相化石として価値が高いです。生息域が限られている生き物の化石の方が地層のできた環境をより特定的に知ることができます。例えば,極端でちょっとあり得ない例ではありますが,海も陸もOK,暑いところも寒いところもOK,という生き物の化石では示相化石として地層のできた環境の特定の手がかりにはなりませんよね。逆に,海の中の深さが100mほどで水温が10℃くらいで水質の良いところというような限られた条件でしか生息できない生き物の化石は,その化石を含む地層もやはりそのような限定的な条件で形成されたことになり,地層のできた環境をより特定的に詳しく知る手がかりとなります。同じように考えると,示準化石として価値が高いのは生息期間が限られているということ。かなり生息期間の短い生き物の化石を含む地層は,やはりその限定的な期間にできたと考えられ,地層の形成年代を絞り込むことができます。先に述べたフズリナ石炭紀からペルム紀という約1億年という地球が出来てから現在までの46億年の中では比較的限られた期間にだけ生息していた生き物なので,示準化石として有用です。あと,生息域が広いという条件は示相化石と示準化石のどちらにとっても価値が高くなる条件。世界中に広く分布する生き物の化石は,それを含む離れた地域の地層のできた環境や年代を比較する手がかりになるので,地球や生命の歴史についてより広く地球規模で詳しく知る手がかりになります。

 

 最後に,ここまで説明したことをふまえた練習問題を一つ考えてみましょう。

 

 下の図に地点①と地点②の二つの離れたところの地層を模式的に書いてみました。地点①のB層と地点②のF層には同じ化石が含まれていたとします。A,B,C,D,E,Fそれぞれの層の積み重なりの順序はどうなるでしょうか?という問題です。

 まず地層累重の法則により,地点①での層の積み重なりの順番は古い方からA→B→C→D,地点②ではE→A→F→Cとなります。地点①のB層と地点②のF層には同じ化石が含まれていることからこれら二つの層は同時に,しかも同じような環境でできたと考えられます。さらに,地層累重の法則より上にある層ほど新しく下にある層ほど古いので,A層とE層を比較すると,地点②ではE層はA層の下にあるので,E層はA層より古い,つまり積み重なりの順番はE→Aとなります。同じように考えてC層とD層については地点①での積み重なり方から見てC→Dの順に積み重なったと考えられます。また,B層とF層は同じ時期にできた,C層はこれら二つの層より上にありA層はこれら二つの層より下にあることから,古い方からA→B=F(B層とF層は同じ時期にできた)→Cの順に積み重なったと考えられます。以上のことから積み重なりの順番は古い方からE→A→B=F→C→Dとなります。

 この練習問題では同じ化石を含むB層とF層を同じ時期にできた地層と考えましたが,これは地層同定の法則に基づきます。地層同定の法則は,同じ化石の内容を含む地層は同時期にできたと考えることができるという法則です。

 地点①と地点②という離れた二つの地点の地層を比較することで,それぞれ1地点だけからではわからないより詳しい地層の積み重なりの順序を知ることができました。地点①の地層だけからは地層累重の法則に基づいてA→B→C→Dという順序しかわかりませんが,地点②との地層との比較からAより古いEの存在がわかるなど,地点①のみならず地点②も含めたより広い地域の地層の積み重なりの順序を知ることができます。これを地層の対比といいます。地層の対比を多くの地点で積み重ねていけば,地球規模での地層の積み重なり方,つまりより広い規模での地球の歴史を知ることに繋がってくるわけです。

 

 このように地層に関する基本法則と化石を手掛かりに地層の積み重なりの順序を知ることができ,これに基づいて地球の歴史を読み解くことができるのです。