大学教員,科学と教育と音楽について語る

大学教員(気象予報士)でありギター弾きのワタシが,天気に科学に教育に音楽に,日々思う雑感を語ります。

安いには理由がある

 先日インド出張から帰国しました。この出張中に何冊か読んだ本のうち,次の本について感想なんかも含めながら述べてみたいと思います:

 バングラデシュにおける縫製産業の実態に関する本で,主に中学生や高校生向きということで,内容はやさしめ,割とさらっと読むことができる本です。普段我々が何気なく着てる服が作られている遠く離れた国で一体何が起こっているのか。身近な衣服というものを出発点に経済のグローバル化の問題点をわかりやすく説明しています。

 990円という破格の値段でジーンズが売られている背景として,バングラデシュなどの労働コストの安い国で生産されているということがあります。近年は,中国での労働コストが上昇してきて,生産拠点がミャンマーバングラデシュなどの国々に移ってきています。身のまわりの衣服のタグを見てみると,「Mada in Mynmar」とか「Mada in Bangladesh」という表記をよく見るようになりました。バングラデシュ産のエビが店頭に並んでいるのを見たことがあり,「へえ,エビもか」と思いました。

 労働コストの安さから世界中のいわゆるファストファッションとよばれるアパレルメーカーがこぞってバングラデシュで商品の生産を行うようになっています。ここで問題となっているのは,その生産現場での労働環境の劣悪さです。この本ではその実態についてくわしく述べられています。安い賃金で長時間,あまり環境のよくない工場で多くの女子工員が働いているという実態(なぜ「女子」なのか,という点についても本書で述べられています)。

 安い賃金で劣悪な環境で工員を働かせている現地の雇用主,その雇用主に発注するファストファッションのメーカー,これらに対する批判はもっともだと思うのです。しかし,なぜ雇用主は労働環境の改善を図ることなく安い賃金で工員を働かせる,働かせざるをえないのか,ファストファッションのメーカーはなぜそのようなところに商品の発注をするのか,というところまで考えないと問題の本質は見えてこない。この本の読みどころはまさにこの点にあると思います。

 そもそも現地の工員に劣悪な環境での労働を強いるほどのコストカットがなぜ必要なのか,それは先進国の消費者が「より安く」を求めるからでしょう。「より安く」が求められる,安くないと売れない,だからメーカーはなるべくコストがかからないように労働賃金が安く済むところを探しもとめる。一方,現地の雇用主は,メーカーの求めるギリギリのコストで,しかも厳しく指定された納期を守るべく工員を「こき使う」ことになる。納期を守ることができなければ次の仕事がこないかもしれないから。

 経済のグローバル化の中で一部の地域の人々の心理や行動がめぐりめぐってと遠い国の人々に様々な影響を及ぼす。まさにグローバル化の影の部分だと思います。色々なことがボーダーレスになるグローバル化には良い点もあると思います。しかし,どんどん色々なものが壁を越えて複雑に絡み合うこれからの社会において,これらのグローバルな社会の流れの長所と短所どちらも偏りなく捉え,問題の本質をしっかり見極めていく姿勢がますます大切になってくると本書を読んで改めて感じました。

 「安い」には安いなりの理由がある。当然といえば当然ですが,その意味をしっかり考える必要があります。といっても,自分のお財布には限界がある。なるべく安く買い物をしたい。しかし,その安いものを買う意味について,買う前によく考えてみたい。本当にそれは必要なのか。本当に必要ならばその安いものでよいのか。長い目でみたときに,もっとしっかり作り込まれ,そのプロセスに見合った金額のものを買った方がよいのではないか。

 しかし,その「安いもの」を買わなくなれば,バングラデシュで安い賃金で働いている人たちの仕事がなくなり,さらに厳しい状況に追い込まれることになるのではないか。と言っても,安いものを買い続けることは今の状況を続けさせることになる・・・。ドウドウメグリ。

 私はバングラデシュの人々が作りだすものに対してその価値に見合った金額で直接的に購入することから始めてみようかと思っています。本書でも紹介されていますが,バングラデシュの方々が作った商品を「フェアトレード」という形で購入できるサイトから商品を購入したり。バングラデシュにはBRACというNGOがあり,ここが展開しているアーロンというお店があります。そこで売られている商品の売り上げは,生産者の賃金や生活向上のプログラムのための資金としても使われるそうです。バングラデシュ渡航の際はそういったところでお土産を買うようにしたいと思っています(というか,いままでもそうしてます)。バングラデシュのジュート製品はおすすめです!あと,衣服や文具など,日本ではあまり見ないテイストのデザインが結構面白くて。一度下記のサイトをのぞいてみてください。

www.aarong.com

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