大学教員,科学と教育と音楽について語る

大学教員(気象予報士)でありギター弾きのワタシが,天気に科学に教育に音楽に,日々思う雑感を語ります。

本屋で新品の本を買うこと

 大学教員として,日々学生と接し,彼ら彼女らの提出するレポートを読んだり,発表や議論を見たり聞いたりしていると,「読書が足りないな」と思うことがしばしばあります。学生の書くレポートや文章を読むと,まず語彙が足りない,そして表現のバリエーションが乏しいということを痛感します。ただ,誤解を恐れずにあえて書くと,「学生は未熟なもの」で,まだそんなに多く本を読んだこともなく,語彙や表現力が足りないことはある意味当然,別に今に始まった話ではないと思います(こんな文章を書いているワタシでさえ学生時代はそうだったと思います)。教員としては,学生に対して「あなたたちは読書が足りないので,語彙も表現力も足りないことを認識せよ」と言い続け,読書を通して語彙や表現のバリエーションを蓄積することの大切さを地道に伝え続けていくことが重要だと考えています。

 しかし,ただ学生に「読書が足りない,本をもっと読め」と言っているだけでは,学生はあまりピンとこず,実際に本を手に取って読む人はそんなに多くないと思います。そこで私は,とりあえずなんでもいいから自分がピンときた本,直感で「あ,これ面白そう」とビビッ!ときた本を読むと良いと常々言っています。そして,そのような本と出会うために「本屋をブラブラすること」をおススメしています。その時は,あまり自分の所属や専門などにこだわらず,例えば自分は法学部の学生だから法律のコーナーの本を見るとか,サークルでサッカーをやっているからサッカーのコーナーの本を見るといったことではなく,まんべんなくあまり深く考えずに「ブラブラ」する。むしろ普段の自分なら絶対に見向きもしないだろうというコーナーに立ち寄ってみるのがよい。そんな感じで本屋を隈なくブラブラしていると,「お!」という本のタイトルが目に入ってくることがよくあります。そういう本が「ビンゴ!」だったりすることが多く,それが自分の直感で選ぶ本,そして直感で選んだ本はほぼ間違いなく自分の世界を広げてくれる素晴らしい出会いをもたらしてくれる本であることが多い,というのが私の経験則です。そういう本に出会って世界が広がる,新しいことを知ることができると,読書がどんどん楽しくなってきて,「次は何を読もうか」となります。私は高校生の時から本屋をブラブラするのが本当に好きでした。

 さらに本屋をブラブラするもう一つの効用として,世の中の色々な事柄がどういうカテゴリーや学問分野に分類されているか,また色々な事柄の間の関係性など,知識の体系マップが頭の中に作られていくということがあると思います。例えば,電気回路のことを知りたいと思った場合,工学系の中の電気関係のカテゴリーのコーナーに行くと関連する本を見つけることができるでしょう。そこで電気回路の本をパラパラ見ていると,そもそも電気とは一体何か,電気そのもののことを詳しく知りたくなってくる,或いは知る必要性が出てくる,そういう思いを持ちながらまたブラブラすると,理学系の電気コーナーで電磁気学という電気そのものを扱う学問分野の本に出会う。なるほど,工学の中の電気回路の知識のベースに理学の中の電磁気学があるのだな,こんな感じで本屋の中でパラパラ色々な本に目を通しつつブラブラすることを通して世の中の様々な知識の体系マップが頭の中で形作られてくるようになります。このような知識の体系マップは人生の様々な場面で直面する問題や課題の解決において,どこに解決策がありそうかということを嗅ぎつける臭覚のベースになると思います。この問題にはあのことが役に立つかも,というような感じで,課題解決の取っ掛かりを見つけやすくなると思います。

 上記のことから,私はこれからもずっと「本屋」を大切に守り続けることが欠かせないと思っています。近年,「本屋」がどんどん減っているということですが,人生を多い豊かにしてくれる大切な場と機会の消滅ということで,由々しき問題だと考えます。

 それから「本は本屋で新品を買うこと」,これも大切にしたいと思っています。新しい本のあの独特の紙のにおいも魅力的ですが,新品を身銭を切って「定価」で買うことで本を選ぶ感覚が研ぎ澄まされ,良い出会いを与えてくれる本を嗅ぎつける直感力を高まると思います。古本を否定はしませんが,価格が安いからとりあえず買っておくか,という感じで買ってしまうことも古本ではあるかと思います。そうやって買った本はまず読まないままになってしまっていることが多いのが私の実状です。古本でも良い出会いはありますが,やはり新品の本の方が多いような気がします。そしてもう一つ,本屋で匂いを嗅ぎながら実際に手に取りながら紙の質感,本の中身の雰囲気,そういった実物感を実際に感じながら,そうすると感覚も研ぎ澄まされて,より自分の求める本に出会う可能性が高くなると思います。そのような感覚を研ぎ澄ませながら,目の前にある膨大な本の海の中をブラブラする中で,思いもよらない素晴らしい出会いがあったりします。これがネットの通販だと,最初から自分の狙ったものやそれに近いものしか検索結果には出てこないので,当初思ってもみなかった本との出会いというハプニングは少ないと思います(これは,ニュースをネットで見るのか紙の新聞で読むのかの違いにおいても同じことが言えると思います。ネットでニュースを見るときは,自分の興味のある記事のタイトルをクリックして選んで読んでいきますが,紙の新聞だと紙面を見渡して普段あまり興味のない(と思い込んでいた)話題の記事も目に入ってきて,読んでみると意外に興味関心をもった,そういう記事に出会うこともあり,それで見識が広がるということもあろうかと)。初めから欲しい本が決まっている場合は,ネットでの購入は素早く検索できて効率的と思いますが,思いがけない素晴らしい出会いへの期待は小さいと思います。

 そういうわけで,私は本屋で新品を買うことをなるべく大事にしています。みなさん,本との素晴らしい出会いを求め本屋をブラブラしてみませんか。そして,直感に正直に真新しい本を手に取って味わいましょう。